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【記者コラム】想像とことば 西田悠(暮らし報道グループ)


【記者コラム】想像とことば 西田悠(暮らし報道グループ)
この記事を書いた人 Avatar photo 西田 悠

 「想像力が全然足りないな」。昨春の入社を機に、出身の京都から沖縄に移り住み約1年、振り返ると上司の記者から指導された中で最も心に残ったのはこの言葉だった。

 夏から警察担当に配属された。捜査機関への綿密な取材を重ね、事件事故の実相をありありと紙面に映し出す上司の背中はまだ遠い。

 取材では事件や事故、火災などの現場に直接出向くことが多い。一方で、それが難しい場合は所轄の警察署に電話をかけ、口の堅い警察官を相手に現場の様子や捜査状況を聞き取って記事にする。事件事故の渦中にある人々の人間関係や背後にある事情、周りを囲むモノの位置や動きなど、何とか情報を割り出そうと試みるが、眼前に見えない空間を想像しながら取材することにはいつも苦渋を覚える。

 大学時の専攻は社会学。近現代世界の負の側面に目を向けたいと国内外のさまざまな土地を訪れ、大学院修士課程では中米のナショナリズムと人種問題について探究した。“世界の中心”から歴史的に排除されてきた人々の苦難に思いをはせることを大切にしたいと考えてきただけに、「想像力が足りない」との上司の言葉は悔しかった。

 千差万別の世界観を持つ人々の間に立ち「ことば」を道具として市井に事実を伝達する新聞記者にとって、他者を想像できることは何よりも重要な力だと思う。県外出身の自身はまず、県内各所に足を運び、独自の文化や人々の暮らしの場に浸ることから始めたい。