来月から新年度が始まる。職場や環境が変わり、新しいことをスタートする人たちも多いだろう。社会人経験が長くなってきた私から一つだけ言えることがあるとすれば、かの有名なアメリカの起業家スティーブ・ジョブズの“Connecting the dots”を挙げたい。
直訳では「点と点をつなげる」という意味だが、一つ一つ丁寧に経験を積んでいけば、その時は思いもよらなかった価値や事象とつながり、振り返るとそこには唯一無二の価値が存在するようになる、という意味だと解釈している。誰しも 「あの時の経験がこんなふうにつながるなんて」と思ったことがあるだろう。
私にも若かりし頃、そういう経験がある。例えば、海外エグゼクティブ(企業の上級管理職)を相手にプロジェクトの説明を毎月、データを使って、英語で行う会議。必ず質問攻めに遭う。針のむしろだ。当時は苦手意識しかなかったが、この経験のおかげで、今では数字に強くなったし、会を重ねるごとに、どんなところをエグゼクティブは気にするのか、つまり、事業成功に重要なポイントが分かるようになった。
そして、部下を持つようになった今では、部下の伸びしろを見極めた上で、その人の成長のために経験させた方が良いと思える業務を割り当て、信頼し、任せるようになった。
そんな人材育成にも20年関わる中で、気付いたことがある。どんどん成長していく人たちの共通点、それは「好奇心」が圧倒的に強い、ということだ。本来は最も望む内容の仕事でなかったとしても、その中に面白いと思えることを見つけ出し、その対象に好奇心を持って取り組む。主体的に動き、経験値を上げていく。実際にやってみたらできるかもしれないのに、「私には無理です」と自分の可能性を閉ざしてしまうのとは対照的だ。
新しいことをする時には、何でも最初の一歩が最もハードルが高く感じられる。しかし、やってみれば意外とできることも多いことに気付くと思う。何か分からないことがあれば調べたり、助けを求めたりすれば良い。チャレンジしていくうちに、次々と新しい扉が開き、今まで見たことのなかった景色が見られるようになる。
うまくいかないことがあっても良い。それすらも「経験」であり、次に生かせば「成長」の糧だ。振り返ると、どの点も、何一つ、無意味なことなどないのだ。新しいチャレンジで、一つでも多くのドットを増やしていきたい。積み重ねていくうちに「こんなふうに点と点がつながるのね」という驚きと喜びの未来にきっと出会えると思う。