有料

事件現場に残された証拠、徹底的に向き合う 「指紋鑑定」に挑む上原さん 聴覚障がいも“強み”に 事務職員で初の鑑定員 沖縄県警


事件現場に残された証拠、徹底的に向き合う 「指紋鑑定」に挑む上原さん 聴覚障がいも“強み”に 事務職員で初の鑑定員 沖縄県警 同僚に囲まれ職務に励む県警鑑識課の指掌紋鑑定員上原ゆいさん(前列)=4日、県警本部
この記事を書いた人 Avatar photo 高辻 浩之

 事件現場に残された証拠収集や解析などを行う県警鑑識課で職務に励む、うるま市出身の上原ゆいさん(36)は県警事務職員としては初めて、指紋などの照合を行う指掌紋鑑定員として働いている。「毎日が楽しく、やりがいがある」と充実した表情だ。生まれながらに聴覚に障がいがあるが、捜査員の縁の下の力持ちとなり、事件の早期解決につながるよう日々、まい進している。

 「これまでさまざまな人にお世話になってきた。自分も誰かの役に立つ仕事がしたい」と公務員を志望し、2016年に県警の警察官ではなく事務職員として採用された。前部署ではデータ入力を主な業務としてきたが約3年前から鑑識課に所属、警察庁の法科学研修所で研修を受け、指掌紋鑑定員として現場から収集した指紋等の照合を行う。出勤後は朝から終業時間まで指紋を見比べる地道な作業が続く。難解なものなら照合まで3日間を擁する時もあり、集中力と根気が求められる職場だ。

 相手の口の動きや表情などから会話の内容を読み取る「口話」を使い、同僚らとコミュニケーションを取る。現場の状況を確認するため、捜査員と電話でのやりとりが必要になる時もある。上原さんにとって対面と違い電話の対応は難しい。それでも、同僚らが進んで代役を担うことで快活なコミュニケーションを図っている。

 「上司や先輩の熱心な指導があり、職場環境は恵まれている。周囲の音の判別ができず気配を感じない分、集中して証拠品と向き合うことができる。集中し過ぎて終業のチャイムに気が付かず、合図をもらうまで仕事に没入してしまう」。自身の不利な点も強みに変える前向きさだ。
 鑑識課の金城世希夫次席は「まじめで辛抱強く、適任」と上原さんに太鼓判を押す。上原さんの働きぶりが影響し、部署内では周囲の人に対する自然な気配りや心遣いが広がっているという。

 「最近では実家の家具に付いた指紋をじっくり眺めてしまうという職業病に悩まされている」と笑う上原さん。先輩たちから受け継いだ経験と知識を、いつかは自分が後輩に伝えられるよう指掌紋鑑定官へのキャリアアップを目標に掲げる。

 「一番重要なのは正確さ、そして速さ。現場で捜査員が苦労している分、妥協はしたくない。少しでも被害に遭った人たちの役に立ちたい」と話し、きょうもルーペをのぞき込む。 

(高辻浩之)