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祖霊に手を合わせる 絶たれた関係繋ぎ直す 佐久川恵美(同志社大学・都市共生研究センター研究員) <女性たち発・うちなー語らな>


祖霊に手を合わせる 絶たれた関係繋ぎ直す 佐久川恵美(同志社大学・都市共生研究センター研究員) <女性たち発・うちなー語らな> 佐久川恵美
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 2020年、琉球正月にあたる旧正月に京都大学総合博物館の前で拝んだ。1929年、旧京都帝国大学の人類学者が、研究のために今帰仁村にある百按司(むむじゃな)墓をはじめ沖縄各地の墓から遺族の許可なく遺骨を収集し、90年以上経つ現在も遺骨が返還されていないと知ったからだ。遺骨の返還を求めて、その子孫にあたる琉球人たちが原告になり京大を訴えていると、友人が教えてくれた。

 琉球人の骨が盗まれて研究材料にされているとは夢にも思わず、墓から無理やり出された人たちは沖縄から遠く離れた京大の博物館に閉じ込められ、弔われず、旧正月を過ごすこともできていないのではないか。ごちそうを用意することはできないけれど、その日が旧正月であること、京都に住んでいたのに先祖たちの苦しみに気づけなかったこと、遺骨を沖縄に帰したいと思っていることを拙いうちなーぐちで伝えた。

 拝んだ時感じたのは、目には見えない多くの人たちの存在と、亡くなってもなお尊厳を奪われ続けることへの強い怒りだった。

 拝むことや弔おうとすることが、死者との関係を築き、旧正月や清明祭のように共に過ごす時間をつくるなら、私が博物館前で拝んだことや、私と併記するのが申し訳ないほどの時間と労力を費やし遺骨返還を求めてきた原告の行動は、盗骨によって絶たれた遺骨との関係を繋(つな)ぎ、弔う場を再びつくろうとするものだろう。

 実際、傍聴した裁判では、遺骨返還に応じない京大や、歴史が異なる大和(やまと)の法で裁こうとする裁判官への批判と共に、裁判所すらも弔いの場にするような熱量があった。祖霊たちも裁判所に押し寄せ、殖民地支配の歴史を軽視する法の裁きと学知の暴力を終わらせようとしているのではないかと感じるほどだった。

 2023年9月、大阪高裁は京大の返還拒否を追認する判決を出し、原告の訴えを棄却した。一方で、琉球民族が先住民族で大日本帝国の殖民地支配を受けていることを初めて事実認定した。この大きな一歩を遺骨返還に結び付けるために、国際基準に則った法、学問、世論が必要だ。

 帝国殖民地の広がりとともに人類学者が盗骨したのは琉球だけでなく、奄美、アイヌ、朝鮮などに及ぶ。尊厳を奪う学問であってはならないし、人々の信頼と権利を軽視する法であってはならない。

 先日の清明祭に百按司墓に行き手を合わせた。一日でも早く遺骨を戻すために私にできることをしていこうと思う。

 (参考…松島泰勝・木村朗編『大学による盗骨』耕文社、2019年)

佐久川恵美 さくがわ・えみ

 1989年生まれ、那覇市出身。同志社大学・都市共生研究センター研究員。主な論文に「福島原発事故における線引きを問う」(共著・ハングル訳「境界における災害の経験」亦樂出版社)などがある。