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新基地建設、揺れ続ける辺野古 「将来見据え議論を」<1票への思い 暮らしの現場から 沖縄県議選2024>5


新基地建設、揺れ続ける辺野古 「将来見据え議論を」<1票への思い 暮らしの現場から 沖縄県議選2024>5 台船(手前)からパワーショベルで海中に石材を投入する作業が続けられる大浦湾=2月9日午後、名護市(ジャン松元撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 潮目が変わった瞬間だった。「原審においてさらに弁論をする必要がある」。沖縄の日本復帰52年を迎えた5月15日、福岡高裁那覇支部。名護市辺野古の新基地建設を巡り、住民たちが国を相手に起こした訴訟の控訴審判決で、三浦隆志裁判長は、住民4人の原告適格を認め、審理を那覇地裁に差し戻した。

 訴訟は、県による埋め立て承認撤回を取り消した国土交通相裁決は違法だとして、住民4人が国に裁決の取り消しを求めていたもの。辺野古に関する訴訟はこれまで、具体的な審理に入らず、原告適格を認めない門前払い判決が続いていた。閉廷後、原告の金城武政さん(67)は「これでようやく中身に入れる。改めて頑張ろうという気持ちになった」と喜んだ。

 住民の主張が認められて国交相裁決が取り消され、撤回が有効になると、国は工事ができなくなる。住民側代理人の白充弁護士は「辺野古に関する裁判は終わったという雰囲気が一定程度あったが、そうじゃない」と強調する。だが、国は5月28日に最高裁に上告。県による承認撤回について、裁判所で議論するかは最高裁の判断を待つことになった。

 「砂が赤っぽく汚れてるでしょう。埋め立てでずいぶん変わってしまった」。梅雨の晴れ間の6月上旬。辺野古漁港近くの浜を歩きながら、80代の女性が声を落とした。結婚を機に辺野古区で暮らす女性の日課は、辺野古の浜まで散歩することだった。2018年12月に土砂投入が始まって以降、浜から足が遠のいた。

 夫の先祖が暮らしてきた土地。女性は「どんなに条件を付けたって埋め立てには反対だ」と言い切る。以前は抗議活動にも参加したが、今は賛否を表に出さない。16日投開票の県議選は「辺野古に反対する人が1人でも多く当選してほしい。県民が反対の意思を示し続けたら、国も変わるのでは」と望んだ。

 辺野古区は条件付き容認の立場で、埋め立ては進んでいる。辺野古で生まれ育った飲食店経営の玉利朝輝さん(65)は「危険な基地を負担し、国を守る義務を果たしている。補償の権利は主張したい」と話す。政治家には賛否を明確にし、賛成なら将来像を示してほしいと望む。「どれだけ反対しても造られる。補償をもらい、豊かなまちづくりを考えた方がいい」

 1996年4月に日米両政府が米軍普天間飛行場の返還に合意した。移設問題で辺野古は揺れ続けている。賛否は違えど、住民たちは同じ言葉を口にする。「辺野古だけの問題じゃない。将来を見据えて議論してほしい」 

(’24県議選取材班)