prime

【記者ノート】戦後の原点に立ち返る 南彰(編集委員、暮らし報道グループ)<歩く民主主義 100の声>


【記者ノート】戦後の原点に立ち返る 南彰(編集委員、暮らし報道グループ)<歩く民主主義 100の声>
この記事を書いた人 Avatar photo 南 彰

「慰霊の日」の早朝、摩文仁の黎明(れいめい)之塔から、平和の礎(いしじ)へと向かうとき、少しだけホッとした。陸上自衛隊第15旅団の旅団長らが、「殉国美化につながる」などと批判されてきた牛島満司令官らの「参拝」に来なかったからだ。

 しかし、それは最近の自衛隊の強引さから浮かんだより悪化した事態との落差にほかならない。15旅団は牛島司令官の句の公式ホームページ掲載を「問題ない」と主張し、削除を求める沖縄戦の体験者らの申し入れも駐屯地の門の外で名刺も渡さず対応していた。

 うるま市石川への陸自訓練場整備計画は撤回されたが、15旅団の師団化を進める国は本島内での整備を目指す姿勢を変えていない。玉城デニー知事は慰霊の日、米軍基地負担に加えて自衛隊の配備拡張が進められることに「県民からすると受忍限度を超えている」と語った。実際、摩文仁の取材では「自衛隊は大きくなりすぎて変わってしまった」と変質を憂う声を多く聞いた。

 自衛隊を創設した吉田茂元首相は防衛大学校生に、「君たちが日陰者である時のほうが、国民や日本は幸せなのだ」と忍耐を説いたとされる。沖縄戦などの歴史に謙虚に向き合い、戦後の原点に立ち返ることは、社会の正気を保ち、戦争を繰り返さないための尊い姿だと思う。