沖縄のありのままを笑いで伝える舞台「基地を笑え!お笑い米軍基地」。2005年の初演から来年で20年を迎える。「芸人としてはうれしい。でもうちなーんちゅとしては腹が立つ」。製作総指揮を務めるお笑い芸人のまーちゃんこと小波津正光さん(50)はそう語る。同舞台の発端は04年、沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事故だ。事故から20年となる今年も、米軍はネタを提供し続ける。
墜落事故の起きた日は、東京都内に住んでいた。小波津さんのもとに、沖縄の知人から「ヘリが墜落して大変なことになってるよ」との電話があった。テレビをつけた。流れているのはアテネ五輪と元読売巨人軍オーナー辞任のニュースだけ。後日届いた琉球新報を見た。1面にはヘリ墜落の記事があった。「戦争のような写真だった」。一方で全国紙は平和の祭典五輪を報じる。「全く逆のことが起きている」と思った。
事故から数日後、新宿でお笑いライブがあった。墜落事故を一面で報じた新聞を握りしめ、関心の薄い東京の人たちを「ずっと説教した」と話す。「ドカーンと笑いが起きた」。自分や沖縄のお笑いとは何か、考えあぐねていた当時の小波津さんにとって「これだ」と思う瞬間だった。「表現されていない沖縄をやろう」。お笑い米軍基地の始まりだった。
04年の11月、沖縄で開いた単独ライブで基地をテーマにコントを披露した。うち一つの題は「普天間基地」。病院で患者にがんの宣告をしようとする医者。その度に上空をヘリが飛び、患者に宣告が届かない。沖縄の現状を笑いにした。
「20年たっても事故・事件は減らない。単純に基地があるからだ」と話す。「武器がない方が平和」という当然の前提が揺らぎ、軍隊組織の異常さに気がつかない。平和学習の講師を務めた時に、「中国の脅威」を前提に「攻められた時、基地はあった方がいい」という若者の声を聞いた。現在の様相は沖縄戦が起きた「79年前と変わらない」とも思う。
舞台は「客観的に見る装置」、コメディーは怒りも悲しみも、柔らかく伝えられる方法だという。俯瞰(ふかん)した沖縄を見せることで「自分たちの当たり前は当たり前ではない」と伝える。分断される県民、矛盾する感情を笑いに乗せ、「本当に突っ込むべきは何か」を問い続ける。
(金盛文香)