10月にスイス・ジュネーブで開かれる国連の女性差別撤廃委員会に向けて、県内の女性たちの動きが活発化している。女性差別の解消に向けて、委員会が日本政府を8年ぶりに審査する機会を捉え、米兵による性暴力事件など沖縄の女性が置かれている状況は女性差別であり人権侵害だとの訴えを委員会に届ける方針だ。県内で女性の地位向上に取り組むメンバーらは、委員会に向けた報告書作成のほか、現地へ渡航しロビー活動や海外NGOとの関係構築へ準備を進めている。
女性差別撤廃条約(CEDAW)の締約国は、国連に対し女性差別解消に向けた取り組みを報告し、女性差別撤廃委員会の審査を受ける仕組みがある。委員会はこれまで結婚後に夫婦同姓を求める日本の制度について改善を勧告してきた。県外では選択的夫婦別姓の導入を求める市民の取り組みが活発だが、沖縄では相次ぐ米兵による性暴力事件について発信しようと、市民らがネットワークの構築や勉強会に取り組んでいる。
「沖縄女性のエンパワーメント(地位向上)」を目的に活動する「IAm(アイアム)」の阿部藹(あい)共同代表らは7月、委員会で日本人初の委員長を務めた林陽子弁護士を招いたイベントを2日間、那覇市内で開催した。
ワークショップでは、市民や議員、女性団体の関係者らが、米兵の性暴力事件や若年妊娠、貧困の連鎖など沖縄の女性が直面する問題を議論した。林弁護士は「文化や国籍の違う委員にどう問題を伝え、効果的な勧告につなげるか考える必要がある」と助言し、現状を訴える重要性を強調した。
共同代表理事の真栄田若菜さんは「CEDAWに取り組む仲間を増やし、ネットワークをつくれたらと思い企画した」と目的を説明。「日本審査後のフォローアップも重要。変化につなげていけたら」と先を見据えた。
審査では日本政府からの報告書と、当事者の声を伝える「NGOレポート」が重視される。ジェンダー平等な社会の実現を目指す団体「アクション沖縄アチーブジェンダーイクオリティ」共同代表の神谷めぐみさんは、全国のNGOからのレポートが米兵の性暴力について十分に盛り込まれていないことを知ったという。神谷さんは沖縄から声を発信しようと、条約発効にちなみ「女性の権利デー」の7月25日に設立イベントを開いた。「沖縄からのアクションが必要だ。声を上げて共有できる場をつくり、広く発信していきたい。小さなグループだが、みんなで一緒に少しずつ前進していきたい」と語った。
また、米軍基地周辺から検出される有機フッ素化合物(PFAS)の問題に取り組む「宜野湾ちゅら水会」のメンバーも金城芳子基金を活用して現地へ渡航予定だ。町田直美代表は「PFAS汚染の放置が女性や子どもの権利を侵害し条約に違反しているということを日本政府に勧告してもらいたい。女性が沖縄を変えていくと確信している」と力を込めた。
(慶田城七瀬、嶋岡すみれ)
女性差別撤廃条約 女性に対するあらゆる差別を撤廃することを基本理念に1979年に国連で採択された。日本は85年に批准したが、条約の実効性を強化する「選択議定書」を批准していない。批准すれば条約上の権利侵害について女性差別撤廃委員会に個人通報ができ、通報に基づいて委員会が調査し、政府に意見や勧告を送付する。法的拘束力はないが、国内外に対し一定の影響を及ぼすと期待されている。