第2次大戦中の「海外戦没者」(沖縄と硫黄島を含む)の遺骨を政府が収集するペースが鈍化していることが6日までに、厚生労働省への取材で分かった。
収容数が3年で11分の1に減った時期も。遺骨取り違え問題や新型コロナウイルス禍が主な原因。帰還を待つ多くの遺族が亡くなる中、収集対象の半数弱の約112万柱は今も現地に眠る。識者は「来年は戦後80年。国全体で収集強化を図るべきだ」と指摘する。
戦没者遺骨収集事業を担う厚労省によると、収集は1952年度に開始し、海外戦没者約240万人のうち今年6月末時点で約127万7千柱を収容。残る約112万3千柱で収容可能なのは相手国の事情で難しいものなどを除き約59万柱とされ、事業を進めている。
だがフィリピンやロシアで収容した遺骨が日本人ではない可能性が2010~19年に浮上するなどして事業が停止したり、20年以降のコロナ禍で渡航が制限されたりして収集ペースが激減。18年度は839柱だったが21年度は75柱、22年度は121柱、23年度も139柱にとどまる。
取り違え問題を受け厚労省は20年、戦没者遺骨鑑定センターを設置。現地の遺骨から採取した検体を国内に持ち帰って調べるなど、これまで以上に収容手順を厳格化したが、事業関係者は「より時間がかかるようになり、鑑定待ちの遺骨が現地に滞留してしまっている」と話す。
日本の委任統治領で戦場となった太平洋のテニアン島に住んでいた福島県会津坂下町の伊藤久夫さん(89)は、現地で父を亡くした知人が遺骨の身元特定の数カ月前に逝去したとして「もっと早く結果が出ていれば。同じように待っている遺族が死んでしまう」と漏らす。総務省の人口推計では、23年10月時点で戦後生まれは人口の約87%で、遺族は亡くなるか高齢となっている。
帝京大の浜井和史教授(日本現代史)は「迅速化との両立は難しいが、取り違えはあってはならない」と強調。収集強化を図るために、厚労省だけでなく、内閣府などが主導して国全体で取り組むべきだとして「より多くの戦没者を、より早く遺族の元に返すため、これまで以上に手を尽くしてほしい」と話した。