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【識者評論】司法の消極性を危惧 辺野古抗告の却下 白藤博行(専修大名誉教授)


【識者評論】司法の消極性を危惧 辺野古抗告の却下 白藤博行(専修大名誉教授)  白藤 博行専修大名誉教授
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 沖縄県知事の変更不承認処分と国土交通相裁決の適法性について実体審理がされないままの門前払い(却下)判決である。基本的には、審査請求に対する裁決について、都道府県には取り消し訴訟の出訴資格がないとした2022年12月の最高裁判決を当てはめたにすぎないものである。

 ただ、不承認処分が法定受託事務であることを理由に、「地方公共団体の固有の自治権に含まれるものとは解されない」から、都道府県の抗告訴訟が認められなくとも、「固有の自治権を侵害するものといえず、地方自治の本旨に反するものとまではいえない」という自治権侵害に対する抗告訴訟の否定の論理はいただけない。

 地方自治法は憲法付属法ともいわれ、「地方自治の本旨」を具体化する法律であるが、法定受託事務も地方公共団体の事務であると定めている。公有水面埋立法は、これに基づき埋め立て免許・承認事務を法定受託事務として定めている。さらに埋め立て事業に即し、「地方自治の本旨」を個別具体的に定めている。

 判決はこのような地方自治保障の法の仕組みを全く理解していない。このことは「法律上の争訟」論にも影を落としている。国はかつて、「法律上の争訟」概念は憲法の解釈から導かれるべきものとして、「司法権」は国民の「裁判を受ける権利」を受け止める「統治構造上の制度的基盤をなすもの」であると主張してきた。

 ならば、憲法が保障する自治権もまた「統治構造上の制度的基盤をなすもの」として、「司法権=法律上の争訟=自治体の裁判を受ける権利(自治権の保護救済)」といった「法律上の争訟」で保護されるべきものである。いかにも私権保護に偏った狭い「法律上の争訟」論による司法の消極性に危惧を覚える。

 (行政法、地方自治法)