米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古新基地建設を巡り、斉藤鉄夫国土交通相が28日、代執行に踏み切った。国策のために地方自治体の判断を覆す前例のない事態だが、政府は「粛々」(国交省関係者)と進める姿勢を強調し問題を矮小(わいしょう)化する。県幹部らからは「新たな屈辱の日」などと憤る声が上がった。
28日午前、斉藤国交相が設計変更を認める「承認書」を作成し、国交省職員が沖縄防衛局職員に交付した。その様子は国交省で繰り広げられたが非公開とされた。国交省関係者は「手続きであってセレモニーではない」と公開を否定した。
年内方針
同日に斉藤国交相が書面で示したコメントも、玉城デニー知事の代わりに設計変更を承認したという事実関係のみを記した2文のみだった。政治的な判断を介さずにあくまで行政手続きを進めたと強調する。
政府内には、着工が年明けとなることを踏まえ、代執行を年明けに遅らせるべきだという意見も一部あった。だが結局年内に実施する方針が固まり、県への通知などを踏まえて官公庁などの仕事納め当日の28日に実施することとなった。
政府関係者の一人は「代執行後に大浦湾側の工事を始めるという大きな流れは決まっている。時期についてはもはや政府内で関心が低く、手続きとして最短のタイミングとなった」と語る。
一方、自民党関係者は「年明けに代執行、着工と連続すれば反政府感情が高まるだけ。年内に代執行すれば、いったん冷ますことができる」と話した。
国交省側は28日に代執行の承認書を作成した後は郵送で沖縄防衛局に届けることを考えていた。だが、防衛省から依頼があって防衛局職員が国交省に出向いて直接受け取ることとなった。少しでも早く承認を得たい前のめりな姿勢が表れている。年明けに工事の準備を加速させたい考えだ。
「最悪のパターン」
「きょうは新たな屈辱の日だ」。県首脳の一人は国が代執行を実施したことを受け、怒りのままに吐露した。
県政与党議員の一人は代執行を認めた高裁判決に「国が埋め立てる権利ばかりを審査し、県が審理を求めた、憲法に基づく地方自治の権利は一切審査されていない。憲法の庇護(ひご)を求め復帰した沖縄の歴史と思いを司法が突き放した」と裁判所の姿勢を疑問視した。
県関係者は、国が異例の代執行を早期に行ったことに対し「事業が大きくなりすぎて、引き返すことすらできない事業になっているのではないか」と行政手法に疑いの目を向けた。今後10~20年後も新基地が完成せず、普天間飛行場が残る「最悪のパターン」が想定されると指摘。一方、いま推進している政治家や政府高官はいずれ引退し「誰も責任を取らない事業になるのではないか」と憂慮した。
別の与党県議は「国際的な人権問題だ」と問題視し「構造的差別が司法も含めて存在していることが、いよいよ表面化した」と断じる。工事に着手すれば「民主的手段で示された民意も、それにより選ばれた知事の声も無視する。その程度の人権意識の国だと、世界中に知らしめることになる」と批判した。
(明真南斗、佐野真慈、知念征尚)