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辺野古サンゴ移植訴訟 判決要旨


辺野古サンゴ移植訴訟 判決要旨 新基地建設が進む米軍キャンプ・シュワブ沿岸=名護市辺野古
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 当裁判所の判断

 原告が各申請に対する許可処分をしないという沖縄県の法定受託事務の処理(本件事務処理)は漁業法119条2項1号の規定に違反するもので、本件指示が被告の関与権限を濫用したものとは認められないことから適法かつ有効であり、原告の請求には理由がないものと判断する。

 争点1 地方自治法245条7第1項の「法令の規定に違反していると認めるとき」に該当するか否かについて

 (1)判断枠組み

 行政不服審査法は、審査庁がした裁決は関係行政庁を拘束する旨と、申請を棄却した処分が裁決で取り消された場合、処分庁は裁決の趣旨に従い改めて申請に対する処分をしなければならない旨を規定しており、審査庁が処分庁の上級行政庁であるか否かによって異なるものではない。処分庁を含む関係行政庁に裁決の趣旨に従った行動を義務付けることで速やかに裁決内容を実現し、審査請求人の権利利益の簡易迅速かつ実効的な救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することにあると解される。

 法定受託事務に係る申請を棄却した都道府県知事の処分を取り消す裁決がされた場合、知事は裁決の趣旨に従って改めて申請に対する処分をすべき義務を負うというべきである。仮に裁決がされたにもかかわらず処分と同一の理由に基づいて申請を認容しないことが許されれば、処分の相手方が不安定な状態に置かれ紛争の迅速な解決が困難となる事態が生じ、裁決が国と地方公共団体との間の紛争処理の対象にならないとされていることに照らしても相当でない。申請を棄却した知事の処分が法令に違反するとして取り消す裁決がされた場合、処分と同一の理由に基づいて申請を認容しないことは、地自法245条の7第1項の「法令の規定に違反していると認めるとき」に該当する。

 (2)裁決が各不許可処分を取り消した理由について

 裁決の判断部分の概要

 (ア)本件さんご類は、埋立事業の遂行に伴って死滅等に至ることが避けられないから、移植することは水産資源保護上必要な措置である。

 (イ)沖縄防衛局が地盤改良工事を行うためには大浦湾側の設計概要が変更される必要があるが、そのことで防衛局が埋立てを完遂する見込みが失われたとか不可能になったとはいえない。工事を行う見込みは維持されており、各申請の内容の必要性が肯定されることに変わりはない。

 (ウ)沖縄県は国交相から是正の指示を受け、変更承認すべき義務を負う。防衛局は変更承認を受け適法に埋立てできる法的地位を付与されてしかるべき状況にある。変更承認を受けていないことをもって各申請内容の必要性を否定すべきとはいえない。

 (エ)移植には相当程度の期間を要する。影響が生じる埋立工事が行われる前に移植を終えておく必要がある。

 以上によれば、水産資源の保護培養等の観点から移植して避難させる必要性が認められる。各申請の必要性を否定して不許可とした各処分は違法かつ不当で、各申請内容の必要性が認められる。その他不許可とすべき事情もないから、各不許可処分は違法かつ不当である。

 イ 特別採捕許可に係る処分の違法と漁業法違反との関係

 特別採捕許可の申請に対する知事の許可又は不許可の判断が、裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たると認められるときは、沖縄県漁業調整規則、漁業法に違反すると解するのが相当である。

 ウ 各不許可処分の取消理由

 裁決は、内容審査基準のうち必要性の項目について、各申請が客観的に同項目に該当すると認められるにもかかわらず、該当しないとした原告の判断が裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たるものと認め、他に不許可とすべき事情もないとして、各不許可処分を取り消したものである。

 (3)原告が各申請を許可する処分をしない理由が各不許可処分と同一の理由に基づくものか否かについて

 原告は、内容審査基準のうち残余の各項目につき該当性の判断を示しておらず、訴訟でも必要性の項目に該当しないと主張するのみで該当しない理由を主張せず、原告の判断を明らかにしていない。

 各申請が審査基準の全てに適合することを理由に許可するよう求めた被告の指示について、原告が訴訟において適法性及び有効性を争うに当たり必要性の項目に該当しないと主張するのみで、残余の各項目の該当性につき自らの判断を明らかにしていないことからすれば、原告が各申請を許可しない理由は各不許可処分と同一の理由に基づくものであると認められる。

 したがって沖縄県の法定受託事務の処理は、漁業法119条2項1号の規定に違反し、地自法の「法令の規定に違反していると認めるとき」に該当する。

 これに対し原告は、指示の時点で防衛局は変更承認を得て適法に埋立てをなし得る法的地位になく、法的地位が付与される見込みもなかったから、変更承認を前提とした埋立工事によってさんご類が死滅することが避けられない状況は生じておらず、移植によって避難措置を図る必要は認められないと主張する。

 しかしながら原告は、各申請が内容審査基準のうち必要性の項目に該当しないという、裁決によって取り消された各不許可処分と同一の理由に基づき許可しないものにすぎず、原告の主張は、沖縄県の事務処理が漁業法の規定に違反していると認められるとの判断を左右しない。

 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、各申請は内容審査基準のうち残余の各項目に該当するものと認められる。

 各申請の対象、内容、方法等によるさんご類の移植は、埋立事業の実施により失われるさんご類を避難させるための手段(環境保全措置)として妥当性が認められる。

 本件さんご類の移植は水産資源の保護に資するものといえる。移植対象・移植先の選定、移植方法、事後調査の内容等の決定にも妥当性が認められ、他に移植が適正に実施されないことをうかがわせる事情も見当たらない。

 原告は残余の各項目について該当性を判断しておらず、要件裁量に基づき第一次的に判断権を行使すべき原告が審査していない該当性について訴訟で裁判所が認定を行うことはできないと主張する。

 しかしながら各申請の事実経過や、原告が第一次特別採捕許可申請を21年1月22日付で不許可とした際には内容審査基準の各項目について該当性を判断していたこと、原告が裁決に係る審査請求手続において各申請につき残余の各項目の該当性に関する主張をしていなかったことを考慮すれば、指示の時点において原告は、残余の各項目の該当性につき判断をすることができたのにあえてこれをしなかったものであって、そのような措置は処分庁としての裁量権を濫用するものといわざるを得ない。原告は自らが判断していないことを理由に、訴訟において裁判所が判断することを拒むことができないというべきだ。原告の主張は採用することができない。

 以上によれば沖縄県の事務処理は、地自法の「法令の規定に違反していると認めるとき」に該当する。

  争点2  本件事務処理が公益侵害等要件に該当するか否かについて

 原告は、被告が沖縄県に対し指示するための要件として、事務処理が法令の規定に違反していると認められるだけでは足りず、事務処理が著しく不適正でかつそれによって公益が害されていることが明らかと客観的に認められることを要する旨を主張する。

 しかしながら、地自法245条の7第1項は、法令所管大臣が是正の指示を行う要件としていずれかの要件を満たせば足りるものとしていることが文言から明らかであって、法令違反に加えて公益侵害等要件の充足も要するとの解釈は、同項の文理に反するものである。事務処理が法令の規定に違反しているにもかかわらず、法令所管大臣が是正の指示を行うことができないとすれば、地方公共団体の法定受託事務の処理に関して、行政事務の適正な執行の確保を図る等の行政目的を実現することが困難となるが、地方自治法が普通地方公共団体に対する国の関与の制度を設けた趣旨に照らして不当であるといわざるを得ない。

 原告の主張は採用することができない。

争点3  指示が被告の関与権限を濫用したものであるか否かについて

 原告は、被告が裁決と指示を組み合わせることによって原告に対して各申請を許可させようとしているが、これは地方公共団体と国とが対等協力の関係にあることを踏まえて審査庁に処分の変更等の命令はなし得ないものとした行政不服審査法の制度趣旨に反し、被告が審査庁としての立場と関与庁(法令所管大臣)の立場とを不当に連結して仕組みを濫用した違法かつ無効なものである旨を主張する。

 しかしながら被告は、地自法255条の2第1項1号に基づき審査庁として審査請求に対する裁決をし、同法245条の7第1項に基づき法令所管大臣として是正の指示をしたもので、裁決主体と指示主体が一致することは法が予定している事態である。裁決後も許可しない沖縄県の法定受託事務の処理に関し、被告が裁決の存在を前提として指示したことは、行政不服審査法52条の趣旨に合致するものというべきである。原告の主張は、独自の見解に立つものといわざるを得ない。

 なお原告は、被告が恣意的に権限を行使していることを示す事情として(1)被告が他の地区のさんご類の特別採捕許可についても防衛局に行政不服審査手続等において便宜を図ってきた(2)被告の指揮監督下にある水産庁において、防衛局が本件水域において岩礁破砕許可処分の手続を免れることができるようにした(3)閣議決定に基づき推進されている埋立事業について、内閣の一員である被告がこれを一体として遂行する立場にある―と指摘するが、(1)については被告の裁決等が違法又は不当なものであることが具体的に示されていない上、被告が防衛局と意を通じていることを客観的に裏付ける証拠はなく、(2)は水産庁の判断と本件との関連性が不明であるといわざるを得ず、(3)は被告の中立性や公平性を疑うべき事情とはいい難いから、原告の指摘を踏まえても被告が恣意的に権限を行使していると認めることはできない。

 したがって、原告の上記主張は、採用することができない。他に指示が被告の関与権限を濫用したものであると認めるべき事情もない。

 結論

 よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

福岡高等裁判所那覇支部民事部
  裁判長裁判官 三浦隆志
  裁判官 下和弘
  裁判官 吉賀朝哉