自民党総裁の石破茂氏が1日、臨時国会で首相に指名され、新内閣を発足させた。閣僚と党執行部人事で防衛相経験者を4人起用するなど「安全保障重視」の姿勢を鮮明にした。総裁選で掲げた日米地位協定の見直し着手や「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」の創設などに向けた布陣とみられる。一方、長年、基地負担を軽減する観点から地位協定の改定を求めてきた県側からは「県民の求める方向に向かうのか分からない」と警戒する声も上がる。
27日投開票の日程を表明した衆院選。結果によっては早くも政権の求心力は低下する。沖縄の基地負担軽減が進むのか、不透明な状況が続く。
高いハードル
石破首相は防衛相経験者の林芳正官房長官や中谷元・防衛相、岩屋毅外相ら閣僚に加え、党執行部でも政調会長に小野寺五典氏を起用した。
中谷氏は記者団に対して「安全保障は石破首相と20年以上検討や議論も進めてきたので、全く考えに相違はない」と“腹心”ぶりを強調した。外交手腕は「未知数」(政府関係者)な岩屋氏だが、日米地位協定の改定を目指す議員連盟に副会長として参加し地位協定の問題については知見がある。2人の起用は、石破氏が防衛・外交に自身の考えを強く反映させたがっているとの見方が大勢だ。
一方で、米軍の特権的な立場の源泉とも指摘される地位協定の改定には、米側が難色を示すことも十分予想される。県関係者は「非常にハードルが高いのは確かだが、突破力に期待したい」と話した。
沖縄・北方担当相(地方創生担当相)には、75歳で初入閣の伊東良孝氏が選ばれた。釧路市で市議、市長を務め「地方行政に精通した人物」(内閣府関係者)と評される。現在、衆院沖縄北方対策特別委員会の理事も務めているが、これまで沖縄との関わりは薄い。沖縄担当相を経験した議員は「地方の状況を見てきた石破さんが選んだ人だ。沖縄にとって今は期待が持てなくても、地方での経験が生きてくるはずだ」と分析した。
同床異夢
石破氏は9月17日、那覇市で開かれた自民党総裁選の候補者演説会で地位協定の見直しに着手すると述べた。かねてより地位協定見直しに言及していた石破氏だが、最も米軍基地の被害を受け続けている沖縄で言及したことに、自民県連関係者は「踏み込んだなと驚いた。沖縄で言ったということは、本気度の表れだ」と期待した。
一方で石破氏の目指す先が、沖縄の望んできた方向性と一致するのかをいぶかしむ声もある。石破氏は同月27日付の米保守系シンクタンク「ハドソン研究所」への寄稿で、アジア版NATOを創設した上で「核の持ち込みや共有」を具体的に検討する必要性があると主張。さらに日米安保条約と地位協定を改定しグアムへの自衛隊駐留を認めることで「日米の抑止力を強化することはあり得る」などと記した。
抑止力の強化を主眼とするような内容に、ある県関係者は「沖縄は、県民の基地負担の軽減を実現するために地位協定の改定を求めてきた。同じ言葉を使っていても、目指す先が違うのではないか」と疑問を呈した。
(明真南斗、嘉数陽、沖田有吾)