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【寄稿】辺野古代執行 自治を制約、妥当性に疑問 紙野健二氏(名古屋大名誉教授)


【寄稿】辺野古代執行 自治を制約、妥当性に疑問 紙野健二氏(名古屋大名誉教授) 紙野健二名古屋大名誉教授(提供)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古の新基地建設問題で、大浦湾側の軟弱地盤改良工事の設計変更申請の承認を巡り、斉藤鉄夫国土交通相が玉城デニー知事に代わって承認するために提起した代執行訴訟の判決が、福岡高裁那覇支部で20日言い渡される。代執行制度の問題について、紙野健二名古屋大名誉教授(行政法)に寄稿してもらった。

 辺野古新基地建設問題で、地方自治法に基づく代執行訴訟の判決が迫っている。高裁が国の請求を認めて県に設計変更申請の承認を命じ、県が不服として上告しても、国が承認できる仕組みになっている。国は県の不承認の違法性、代替的手段の欠如および公益侵害の明白性などが主な論点としている。

 代執行制度は、実は深刻な疑問を免れない。地方自治を大きく制約するからである。制度の趣旨を善意に基づき解釈すれば、想像を絶する大規模災害や疫病のまん延といった極限状態と、直面した都道府県が機能不全状態に陥った場合への危機管理の仕組み、との説明がありえるのかもしれない。
 このような解釈から出発しても、目下の状況で国がこの仕組みを用いることの妥当性、適法性の疑問がぬぐえない。極限状態などの発生と埋め立て承認問題は、次元を異にするものとしか思えないのである。

 まず、埋め立て反対については翁長雄志前知事、玉城デニー知事へと受け継がれてきた政治的意思が存在し、2019年の県民投票でも確認され明示された。これに基づいて県はあらゆる機会で国に対して様々な働きかけをしてきた。
 県と国の紛争で利用できる解決方法は、あらかじめ法的整備がされていなければならない。しかし国は、長年にわたってこれを怠ってきたばかりか、それを奇貨として埋め立て事業者・承認申請者と事務委託者の地位の併用と混同をしてきた。

 また救済制度の整備を怠ってきた立法と、役割を放棄して県の訴えの門前払いを繰り返す司法という後ろ盾があってはじめて、国の恣意(しい)が可能だった。その積み上げの帰結として代執行訴訟に至っている。このような司法に今回まっとうな判決を期待するのは、およそ無理というほかない。
 高裁が承認を命じるなら、知事はもはや承認するしか選択肢はなく、承認しないことは法治主義に反するという非難がされるだろう。裁判所の判決は終局的で一見もっともにみえる。ところが、地方自治法は知事が判決に従わない場合まで想定して代執行の定めをおいている。従って、その非難が妥当するわけがない。

 代執行手続きを容認するとしても、それは地方自治や法治主義を越えた一種の危機管理的な仕組みだ。埋め立て承認問題をそこに持ち込むことは、全く法の趣旨に合わないという結論にならざるを得ない。 (行政法)