那覇市泉崎の琉球新報ホールで開かれた「第1回人間の安全保障フォーラム」(琉球新報社、ゴルバチョフ財団日本事務所主催)。玉城デニー知事と作家の佐藤優さんによる忌憚(きたん)のない活発な議論が交わされ、約400人の来場者もじっと耳を傾け、県民の意思による軍事に頼らない平和をいかに築くことができるのかを共に考えた。
自己決定権の行使の在り方について、玉城知事は沖縄防衛局による新基地建設に伴う名護市大浦湾側の工事の設計変更承認申請を、公有水面埋立法に基づき不承認とした件に言及した。
軟弱地盤の改良工事に対する懸念が解消されていないとする県の立場を家屋建設に例え、「家を造るときに重要な部分について『調べても調べられないのですが大丈夫』と言われて、お金を出しますか」と、聴衆一人一人を見るように手ぶりを交え説明。国のおかしさを神妙な表情で訴える知事の問いかけが会場の笑いも誘った。
沖縄防衛局から十分な情報提供がなかったとし「これは認められない、不承認です、ということで決定した」と述べると、会場から「そうだよ」という声や、支持を示す拍手が起こった。
佐藤さんは台湾有事への懸念が高まり緊迫化する現状に触れ「戦争は引き起こしてはいけないし、巻き込まれてもいけない。絶対に戦争は沖縄にとって百害あって一利なし」と、知事に向き合いながら持論を強調。戦争を回避するために外交の重要性を改めて訴えた。
クロストークでは、佐藤さんがバルト3国がソ連から分離独立した際に用いたとして、「県の東京事務所を在東京県常設代表部に、所長を日本大使に改める」と提案。会場からは歓声や拍手が起こり、玉城知事も笑みを浮かべながらも何度も大きくうなずいていた。
与那原町から会場を訪れた玉本久美子さん(69)=与那原町=は「『台湾有事』が、佐藤さんの話で、差し迫っている訳ではなく、(日米が)けしかけているだけということが分かった」と安堵(あんど)の表情を見せた。弟の仲松庸敏さん(64)=与那原町=は「戦争ではなく外交を考えることが大事だということはその通りだと思う」と納得した様子で話した。
会場には能登半島地震の被災地支援のため募金箱が設置され、約18万5千円の義援金が集まった。
(小波津智也、中村万里子)