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夕暮れにギター弾く父、校舎のベランダで歌った日々…Anlyの“才能”の原風景 小禄高校(1)の続き<セピア色の春>


夕暮れにギター弾く父、校舎のベランダで歌った日々…Anlyの“才能”の原風景 小禄高校(1)の続き<セピア色の春> シンガー・ソングライターのAnly
この記事を書いた人 Avatar photo 吉田 健一

 2023年に創立60周年を迎えた小禄高校。県内では珍しい芸術に特化したカリキュラムを持ち、多くのアーティストを輩出してきた。那覇市の名勝・天然記念物に指定されているガーナー森(ムイ)に隣接し、市で3番目の普通高として誕生。スポーツ強豪校としても知られ、サッカーや弓道などで多くの実績を上げてきた。そんな小禄高の下校時に流れる歌がある。力強くも優しい歌声を持つシンガー・ソングライターAnly(27)の「北斗七星」だ。

 9年前に小禄高を卒業したAnlyは50期生。高校時代に本格的に音楽活動を始め、毎日、ギターを担いで学校に通った。「生徒一人一人の才能を伸ばしてくれる学校で、先生方は私の音楽活動に全面的に協力してくれた」と感謝の言葉をつづる。


 Anlyは1997年1月、音楽好きの両親の下、一人娘として伊江島に生まれた。ギターが趣味の父、沖縄民謡好きの母の影響で、暮らしの中には常に音楽があった。「米軍放送網」(AFN)のラジオ番組から流れてくるロックやカントリー、ソウルミュージックなどを聞いて育った。ラジオから流れる音楽、夕暮れに窓辺でギターを弾く父親、幼少期の体験は曲作りの原点となっている。

 Anlyにとって音楽は家族のような存在であり、音楽活動に欠かせないギターは「きょうだいのような存在」だ。ギターに初めて触れたのは4歳の時。父が買ってきた子ども用のギターだった。「おもちゃ代わりに弾いていた」と振り返る。

 小学3年生にはコードを覚え始め、中学2年には職業としてのミュージシャンを意識するようになった。友人らから「歌がうまい」と褒められ、「歌うことが得意なんだ」ということを自覚したからだという。その時から思いついたフレーズを書きとめるなど曲作りが始まった。

 中学では吹奏楽部に所属し、高校では、より音楽を学びたいとの理由で「芸術教養コース」がある小禄高校に進学した。島を離れての新生活。Anlyにとって小禄高は「一人一人の才能を伸ばしてくれる」場所だった。休み時間になると、ベランダに出ては自作の曲をよく演奏していたという。「友人をイメージした曲を勝手に作っては演奏していた。最初の観客が友人だった」。クラスメートには、絵に打ち込む友人、ラップが得意な友人、さまざまな個性があった。「ちょっとした時間にみんなが思い思いにそれぞれ発表している環境で、自分が個性的とも思わなかった」と笑う。

高校3年生の時の予餞(よせん)会でギターを弾きながらを歌を歌うAnly=2015年、小禄高校体育館

 高校でも吹奏楽部、そして合唱部に所属したが、自身の音楽活動に打ち込むために、1年の終わりに吹奏楽部を辞めた。その後、母に卒業後の進路について「歌を続けたい」と打ち明けた。母から「そう言うと思ったよ」と、背中を押された。その後すぐに転機が訪れる。食事やライブが楽しめる那覇市首里の喫茶室アルテ崎山を訪ね、自作の曲を披露したことをきっかけに現在所属する音楽事務所の社長名城文夫とつながり、音楽活動を本格化させる。

 ライブハウスでの演奏やストリートライブを精力的にこなしながら曲作りも進めた。そして、2015年に小禄高を卒業してわずか半年後の11月、高校時代に作った「太陽に笑え」でメジャーデビューを果たした。この曲は、テレビドラマの主題歌に起用された。18歳ながらもメッセージ性の強い歌詞にパワフルな歌声は世間の注目を浴び、その後も、リリースする楽曲は人気アニメ「NARUTO―ナルト 疾風伝」のオープニングテーマに選ばれるなど、アニメやドラマ、CMソングに相次いで起用された。

 国内での音楽活動と並行してイギリスやドイツなど欧州を中心に海外ツアーも積極的にこなす。新型コロナウイルスの影響で一時は活動を制限されたが、昨年8月から海外ツアーを再開、同年10月には5枚目となるフルアルバム「26ml」を発売した。唯一無二のシンガーへ。進化は止まらない。

(文中敬称略)
(吉田健一)
(火、金曜掲載)

 【沿革】

 1963年4月 開校

 68年4月 通信制課程開設式(77年に泊高に移転)

 70年7月 全国高校野球選手権沖縄大会で初優勝

 71年7月 弓道女子チーム九州総体優勝

 83年11月 九州地区吹奏楽連盟主催マーチングバンドコンテスト金賞

 87年11月 全国高校サッカー選手権沖縄大会優勝

 88年8月 全国高校総体ハンドボール男子で県勢初の全国制覇

 90年8月 全国高校総体空手道個人型優勝

 98年4月 コース制導入

 2004年4月 コース制一部改変

(QRコードから校歌を聞くことができます)