弁当代ためてCD買い、古着を楽しむ「普通の高校生」が花開くまで　歌手jimama　小禄高校（3）＜セピア色の春＞

　3人きょうだいの長女として、那覇市泉崎で生まれた。父親は那覇の老舗ホテルだった沖縄レインボーホテル社長や県ホテル旅館生活衛生同業組合副理事長などを歴任した故宮平麗政。妹は映画監督の貴子だ。父は「長女だからかしつけが厳しく心配性で、高校時代はアルバイトもさせてもらえなかった」と振り返る。年の近い妹とは特に仲が良く、「高校時代には妹の希望で髪を切ってあげていた」という。自身の性格については「昔からおとなしく、辛抱強い子」。持久力には自信があり、中学の校内マラソンは上位だった。

　小禄高校へは、自身の学力に合っていることと制服のかわいさもあり進学を決めた。軟式テニス部に所属したが、「テニスのセンスがなく」2年で辞めた。得意科目は英語と美術。英会話を学ぶため週に1回は友人とキャンプ・キンザーに通っていた。美術の授業は、好きなアーティストをイメージしたCDジャケットの制作が一番楽しかったという。

　高校時代は古着好きで、「自分なりのおしゃれを楽しんでいた」。音楽は「ミーハー」だからなのか、いろんなジャンルを聞いていた。暇さえあれば家のケーブルテレビの音楽チャンネルでミュージックビデオをずっと見ていた。母からもらうお昼の弁当代（500円）をためてはCDを買っていたのも懐かしい思い出だ。

　「でいご」や「大丈夫」などのヒットソングで知られる歌手のjimama（本名・宮平照美）は30期生。歌手を志したのは社会人になってからで、高校時代は「目立つタイプではなかったので、まさか歌い手になるとは思わなかった」と語る。

　3年になり、進学で悩んでいた時、当時の担任と英語の先生から指定校推薦の話を聞かされたことで、海外留学を視野に長崎県の長崎ウエスレヤン短期大学（現・鎮西学院大学）に入学した。そこで転機が訪れる。jimamaの歌唱力の高さを伝え聞いたゼミの先生ジョセフ・ロメロから学祭で歌わないかと提案された。快諾したが、本番の4カ月前に事故に遭い足を骨折、3カ月の入院生活を余儀なくされた。本番は松葉づえでステージへ。人生初の舞台。曲は人気映画「天使にラブ・ソングを2」劇中歌の「joyful joyful」。緊張しながらも渾身（こんしん）の力で歌いきった。

　それから2年後、ロメロ先生から交通費と宿代を出すので学祭で歌ってほしいと連絡をもらい、そこで「歌でやってみる気はないの？」と聞かれた。短大卒業後に、レインボーホテルのフロント担当として働いていたjimamaはその言葉をきっかけに、自身の人生を見つめ直す。「好きな音楽をやりたい」と決意し、音楽の基礎を学ぶため京都にあった音楽学校に進学した。

　京都の学校で出会った友人の誘いをきっかけに2001年、音楽ユニット「jimama」を結成。名前の由来は「わがまま、自由奔放」を意味するウチナーグチだ。その後、オーディションをきっかけに04年にメジャーデビュー。同時にソロ活動をスタートさせ、数々の楽曲を生み出してきた。jimamaにとっての音楽は「物語の記録と祈りのようなもの。そして、言葉だけじゃ伝わらないことが音楽を通すと伝わったりする、誰かとつながるための会話のようなもの」

　高校生活を振り返り、「本当に普通の高校生だった。だけどあのころ、感動したり興奮したりしたことは今でも覚えていて、その出来事が今につながっている」と語る。後輩たちへは「何かに心動かされた時の衝動を大切にしてほしい。二度とない今を思いきり生きてほしい」と、エールを送る。

　今年で活動20周年の節目を迎えるjimama。昨年公開の沖縄が舞台の映画では演技に初挑戦し、劇中歌も披露するなど活動の幅を広げる。さらなる飛躍に向け、ワンマンライブの開催や、これまで試みたことない新しいプロジェクトでCDをリリースすることが目前の目標だ。

（文中敬称略）
（吉田健一）