宇座仁一 悪役でもにじむ「人間くささ」<清ら星―伝統組踊の立方>


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組踊「大川敵討」より谷茶の按司

 抑制された所作と、美麗な音楽や唱えで構成されることから「聴く演劇」ともいわれる組踊にあり、面使い一つとってもさまざまな感情を表現し、視覚でも楽しませる。悪役を演じていても、どこか人間くささや人情味がにじみ出る。

 父・宮城能史と母・宮城能之を師匠に、芸能一家に育ち、小学6年生最後の遠足の日も舞台に立った。役は身分の高い人が座る「きやうちやこ(ちょうちゃく)」持ちだった。「なぜ人生で一回しかないこの日に、僕がいすを持つ役をやらないといけないのか」。その頃から少し反発もあったが、舞台には立ち続けた。

  芸能と誠実に向き合い直すきっかけは、能史の死だった。「せめて親の顔に泥を塗らないように努めよう」と心を改めた。今は「日本全国・世界への普及は最終的な目標としてもちろんのこと、まずはウチナーンチュの皆さまが組踊と言う芸能の存在を当たり前のようにわかっている状態にしたい」と精力的に舞台を務め、一線で活躍を続ける。

 うざ・じんいち 1975年那覇市生まれ。宮城能史と宮城能之に師事。組踊の最高傑作の一つ「大川敵討」の近年の国立劇場おきなわ公演で、谷茶の按司を演じた。踊奉行役を演じる舞台「五月九月(ぐんぐぁちくんぐぁち)」が、2019年度文化庁芸術祭の大衆芸能部門で大賞を受賞。

 演目と写真説明  組踊「大川敵討」(一名/忠孝婦人)。作者は久手堅親雲上とする説や、首里の有志数人による合作など諸説ある。谷茶の按司に、主君・大川按司を殺された村原の比屋が妻・乙樽らと知略を駆使し、敵討ちを果たす物語。写真は「糺(ただ)しの場」の谷茶の按司。乙樽は、城内の様子を村原に伝えるために単身乗り込み、谷茶に巧みな弁舌と色仕掛けで迫る。荒々しい武将の谷茶が、乙樽に骨抜きにされていくさまが、愉快に描かれる。

 

第一線で活躍する中堅・若手の組踊立方の魅力を伝える新連載「清(ちゅ)ら星(ぼし)―伝統組踊の立方」。将来、沖縄が誇る伝統芸能の第一人者となる立方の貴重な今を切り取ります。写真撮影は国立劇場おきなわをはじめ、数々の舞台を撮影している大城洋平さんです。

新型コロナウイルス感染症の影響で舞台活動や日々の生活にも制限が続いています。観劇に行きたくても行けない組踊ファンや、日々を懸命に過ごす人々の心を少しでも癒やせれば幸いです。