佐辺良和 心振るわす女形、6歳で感じた運命<清ら星―伝統組踊の立方>


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組踊り「雪払」より思鶴

  末っ子長男、姉4人。6歳の頃、先に琉舞を習っていた姉たちをまねて無邪気に踊る姿を見た母に連れられて、又吉世子に琉球舞踊を師事する。道場に飾られていた般若の面におびえながらも、張り詰めた稽古の空気に心引かれた。

 

 幼心に琉舞との出会いを運命的に感じていた少年は、特に女形で出色の才能を見せる実演家に成長。2015年には日本伝統文化振興財団賞を県内で初受賞する。財団からは「沖縄伝統芸に向かう真摯な姿勢は、芸の熟成を予感させ将来に大きな期待を抱かせる」と評された。

 洗練された所作や柔らかく温かな声色の唱えで、観客の心を振るわす。

 さなべ・よしかず 1980年那覇市生まれ。琉球舞踊世舞流二代目家元。86年に琉球舞踊世舞流の又吉世子初代家元に師事。県立芸大大学院音楽芸術研究科舞台芸術専攻修了。国立劇場おきなわ組踊研修修了生。15年に第19回日本伝統文化振興財団賞を県内で初受賞。 

 演目と写真説明  

 組踊「雪払(ゆちばれー)」。継子いじめを背景に親子の情愛を描く「世話物」。真境名由康によるものや、今帰仁御殿に残されたものなど複数の台本がある。写真は真境名由康本版「雪払」の思鶴。

 両親に先立たれた思鶴と弟は、ままははに育てられるが、雪の中に放り出されるなど、ひどい仕打ちを受けている。写真は、雪が降りしきる中、庭の草木に積もる雪を払うようままははに命じられて、途方に暮れる場面。雪を降らす演出が、物語の舞台が沖縄であることを忘れさせると共に、心温まるラストを引き立てる。

第一線で活躍する中堅・若手の組踊立方の魅力を伝える新連載「清(ちゅ)ら星(ぼし)―伝統組踊の立方」。将来、沖縄が誇る伝統芸能の第一人者となる立方の貴重な今を切り取ります。写真撮影は国立劇場おきなわをはじめ、数々の舞台を撮影している大城洋平さんです。

新型コロナウイルス感染症の影響で舞台活動や日々の生活にも制限が続いています。観劇に行きたくても行けない組踊ファンや、日々を懸命に過ごす人々の心を少しでも癒やせれば幸いです。