甘くまろやかな風味へ熟成していく古酒は、家庭でじっくり育てていくことができる。「古酒の貯蔵なんて、難しそう」と思ってしまいがちだが、いくつかのポイントを押さえれば、意外に簡単だ。「すべての家庭の床の間にクースガーミ(古酒甕)を」を合言葉に活動を続ける「山原島酒之会」会長の安次富洋さんに、仕次ぎをしながら甕で古酒を育てる方法を教えてもらった。
初めての古酒づくり。ポイントは?・親酒と甕の選び方
まずは親酒(アヒャー)と甕を用意しよう。親酒には「常圧蒸留を行った43度の泡盛」がオススメ。銘柄は個人の好みでOK。ある程度寝かせた古酒を親酒に使うのもよい。
仕次ぎをしながら古酒を育てるには、甕で貯蔵する必要がある。瓶でも古酒化は進むが、一度開けてしまうと再び蓋をするのが難しいからだ。甕は固く焼き締められたものがオススメだ。はじいた時に金属音がするものがよい。大きさは、各家庭の事情に合わせて選べばよいだろう。
・直射日光を避け保管
甕を保管するのは一般的に床の間というケースが多いが、直射日光にさえ当てなければどこでも大丈夫。「甕を振るといい」ともいわれるが、大きく揺らす必要はない。歩く時に生じる揺れなど、日常生活で生じる振動で十分だ。
・仕次ぎは7年目から
泡盛は、5年〜7年で古酒化が急速に進む。仕次ぎは、7年目から行うのがよい。
親酒に古酒を使う場合、仕次ぎまでの期間は短くなる。例えば、3年古酒を親酒に使う場合は、4年目から仕次ぎを行う。
・1年に1度は甕の状態を確認
仕次ぎを行うのは7年目からがオススメだが、それまでも1年に1度は甕の状態を確認しよう。甕から酒が漏れてしまったり、カビてしまったりする可能性があるからだ。
持てる程度の大きさの甕であれば、体重計で重さを測り、重量が減っていないかどうかを確認できる。持てない大きさの甕は、棒を入れて水位を確かめよう。
1年目は甕が酒を吸い込むため、少し量が減少する傾向があるが、2年目以降は甕の状態に問題なければ量は安定する。しかし、甕は10年経って突然漏れてしまう場合もある。毎年の確認を忘れずに。
密封にはセロファン紙を活用
※③の上にさらに月桃紙や布などをかぶせると見た目もよく保管できる
仕次ぎで古酒を少しずつ味わおう・年に1割以内のペースで
仕次ぎの量は、1年に1割程度。この割合を守っていれば、年に何度行ってもいいが、正月や誕生日などのタイミングにあわせて仕次ぎの日を決めておくとよいだろう。例えば安次富さんは、毎年、正月を仕次ぎの日と決めている。正月にのんびりと、親族と共に飲み交わす古酒の味わいは格別だという。毎年味わいを深めていく古酒を少しずつ堪能できるのは、家庭で育てる古酒づくりの醍醐味(だいごみ)だ。
・度数が高い泡盛を継ぎ足す
長期間保管することで、アルコール度数が落ちていく傾向がある。継ぎ足す酒は、43度など度数が高いものを選ぼう。銘柄は親酒と同じでもいいし、あえて別のものを継ぎ足して独自の古酒に育てていくのもアリだ。
記録のメモをとっておこう
甕にいつ、どんな泡盛を入れたか記録を残そう。泡盛の銘柄、度数、蒸留年を記入したメモを甕の口にぶらさげておくと、何年古酒になっているかが確認できる。仕次ぎを行ったときも、仕次ぎした日付と継ぎ足した酒の情報をノートなどにメモしておこう。
もし甕が漏れてしまったら…
もし甕が漏れてしまっても、エポグラスという補修材を用いたり、漆を塗ったりして補修できる。また、万一、カビが生じてしまっても、取り除く方法はある。先輩などに相談し、諦めずに対処しよう。
古酒づくりの魅力とは?
古酒づくりの魅力は何だろうか。安次富さんは、「子や孫につないでいけるところ」と力を込める。20年、30年と時が経つにつれ、古酒は家宝ともいえるものに育っていく。
古酒づくりは奥が深い。「スタートは同じでも、どの甕で貯蔵するか、どの酒を継ぎ足すかで、味も香りもまったく違うものに育っていく」と安次富さんは話す。「泡盛の歴史や文化を学ぶ機会も多くなり、自分のためになっている」。古酒づくりは、安次富さんの人生を豊かなものにしているようだ。
伝統的な仕次ぎとは?
伝統的には、複数の甕を用意し、1番古い親酒には2番目に古い古酒が入った2番甕の酒を、2番甕には3番目に古い古酒が入った3番甕の酒を…という具合に仕次ぎをしたといわれる。甕の数が増え、保管場所も取ってしまうため家庭で行うにはハードルが高いが、余裕が出てきたらぜひ挑戦してほしい。
成長を続ける古酒 〜恩納酒造所の仕次ぎ〜
県内に古酒を扱う 酒造所は多いが、現在、仕次ぎで育てた古酒を製造する酒造所は少な い。風光明媚(めいび)な万座毛近くで、地下から湧き出る硬水を用い、昔ながらの手法を変えずに酒づくりに取り組んでいる恩納酒造所は、そのつ一だ。
「泡盛は、常に成長を続けている」と 同酒造所 代表社員の渡山誠さん。「貯蔵期間が長くなればなるほど、親酒の変化が大きくなる」。年月の経過にい、香りや味が移り変わっていくという 。
「10 年を超えるぐらいから、大きく熟成が進む。それまでは伝統的な仕次ぎの方法を行い、以後は、その時点で必要な古酒を慎重に見極め、継ぎ足すようにしている」。数名の社員がテイスティングして味と香りのバランスをチェックし、相談しながらどんな酒を入れるか決定しているそうだ。
「どんなふう に育ってほ しいか、今仕次ぐのはどの酒がよいか、判断が難しい。持ち主がイメージを持ち、判断していくのが大事な部分であり、古酒づくりの醍醐味だと思う」。古酒と向き合い、デリケートな判断を重ねることで、個性豊かな世界に一つの古酒が育っていくのだ。
合資会社 恩納酒造所
恩納村恩納2690 ☎ 098-966-8105
事前の申し込みでエ場見学可能
上質な古酒を育てるシャム南蛮甕
シャム南蛮甕とは、15〜16世紀ごろ、シャム(現在のタイ)で造られたとされる伝説的な甕。
土の成分が泡盛とよく合い、この甕で貯蔵することで泡盛に独特の香りと色がつくという。
◀安次富さんがシャム南蛮甕で育てた12年古酒。甕の色が泡盛にうつり、黄土色に色づく古酒になっている
山原島酒之会とは?
「すべての家庭の床の間にクースガーミを」の合言葉のもと、古酒の魅力を伝える活動を展開。月1回、名護市内で例会を行うほか、県内北部の各市町村を回り、定期的に仕次ぎ講習会などのイベントを開催している。例会はオブザーバーの見学もウエルカム。仕次ぎに関する相談や質問も受け付けている。
連絡先 ☎090-3795-1197
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(2018年8月30日 週刊レキオ掲載)