南風原町出身でドイツ・ベルリンを拠点に活動する現代美術家、照屋勇賢さんの展覧会「照屋勇賢 オキナワ・ヘヴィー・ポップ」(県立博物館・美術館主催)が、那覇市の県立博物館・美術館で開催されている。照屋さんの仕事の全体像に迫る県内初の大規模な個展だ。沖縄の歴史を振り返り未来を模索する作品、「当たり前」と思っていたことを揺さぶる作品などが並び、沖縄戦をテーマにした新作もある。照屋さんへのインタビューと写真を通して展覧会の様子を紹介する。 (伊佐尚記)
―展覧会全体と第1章の展示のタイトルとなっている「ヘヴィー・ポップ」とは。
「アーティストとして沖縄を元気にしたいという思いがあり、歴史から学ぶ努力をしている。沖縄の人々は厳しい状況の中で楽しいことや夢を見つけてきた。アートは価値観を変えていったり、表現することで苦しい状況を乗り越えていったりすることが可能だと思う。沖縄の歴史を考える時、困難にへこたれるけど、もう1回立ち上がろう、飛び上がろうという姿勢を感じる。沖縄を考えること自体が非常に『ヘヴィー・ポップ』なんだと思う」
![](https://ryukyushimpo.jp/tachyon/2023/11/t-5.jpg)
―沖縄戦の遺品を用いた新作「missing(for sale)」について。
「missing(ミッシング)とは失ったもの、亡くなった人たち。それらに値段がついてる。値段がつけられるわけがないんだけど、あえてつけることで、失ったものの価値を想像するという意味がある。値段の数字は戦没者数や年号からつけている。この数字も殺されてしまった人たちを認識することにつながる。ディスプレーを開けっぱなしにしているのは触ってほしいから。当時を想像し、いまだに(遺品が)出土するという現実を実感してほしい。今後の平和教育は、いかに想像力を養うかだと思う」
![オスプレイ配備に反対する県民大会を報道した新聞を用いた作品「自分のこと、あなたのこと」。各国の言語で「これは自分のことで、あなたのことだ」と切り抜き、各地との共通点を探る](https://ryukyushimpo.jp/tachyon/2023/11/t-4.jpg)
「これらの遺品は南部の激戦地から出土したもので、遺骨を収集する松永光雄さんから預かってきた。作品を思いついたきっかけとして、松永さんの尊敬する国吉勇さんというがまふやー(遺骨収集をする人)がいる。彼は沖縄戦で母親らを失い、『ずっと母親を探している』と話していた。それを聞いた時、この人の遺品・遺骨収集は母親を探す行為だったんだなと僕は理解した。いつまでも悲しみから抜け出せない、たくさんの“国吉さん”が沖縄にいると思う。遺品を説明して終わりじゃなくて、どういう思いで集めているのか、集めざるを得ないどうしようもない苦しみを感じてほしい。戦争は終わっていないと」
―「沖縄県立博物館・美術館」という作品があるが。
「糸満市のガマにあったクチャを使っている。土そのものは美術館に持ち込めないという制限があるので、焼いてやちむんという形に変換した。やちむんという行為に興味があったので制限とマッチした。幼い頃から(激戦地である)南部の土には悲しみとか怒りがしみついていると感じていた。最近、その土を練って器に変えることが、怒りや悲しみと向き合うコミュニケーションとして成立するんじゃないかと思い始めていた。特に南部の土が辺野古の埋め立てに使われるかもしれないというニュースを見て、今起こっていることを展示に反映しなきゃいけないっていう気持ちになった。作品のタイトルは、県立博物館・美術館が建つ場所も激戦地だったという土地性を強調したかった。この下にも同じような土はあるはずだ」
![](https://ryukyushimpo.jp/tachyon/2023/11/t-2.jpg)
―第1章では風船をモチーフにした作品も対照的に展示されている。
「風船は自由や希望の象徴。(砲弾の破片に風船をくくりつけた作品「空へ2」は)砲弾の破片の重さを感じてほしいということと、風船もこんなに集まると(砲弾の破片を)持っていくようなエネルギーが生まれるという物語性を込めている」
―紅型を使った作品について。
「(2002年に初めて紅型の作品を発表した頃は)経験がない中で紅型にほれ込んで必死で作った。紅型を使うことで沖縄らしい形、光、色にしてくれる。紅型を通して対象を描くことは、沖縄の歴史や美的感覚による翻訳と言えるのではないか。例えば、紅型で描いたジェロニモの肖像も紅型の世界観の中で見える像だ」
![紅型の手法で描いた(右から)「ウルトラマン」「オバマ」「ジェロニモ」](https://ryukyushimpo.jp/tachyon/2023/11/t-6.jpg)
―いろんな表現手法を取っているが、自身の仕事を振り返って、変わってきたこと、あるいは変わらないことはあるか。
「当事者なので全然分からない。もう少し俯瞰(ふかん)した形で見られたらいいなと思うけど、展示がシャボン玉だとしたら自分はシャボン玉の中にいる感覚だ。確実に言えるのは僕1人では絶対にできないということ。出会った人たちのエッセンスと僕のアイディアが結びついて作品づくりをしてきた。沖縄で活動する人たちと関わることで作られてきたものの集大成とは言える。ある意味、『これが僕の表現です』っていうものがないかもしれないが、それが僕のやり方と言えばやり方。そこがユニークなのかもしれない」
![ファストフードや高級ブランドの紙袋を木の形に切り抜いた作品「告知―森」。大量消費される紙が、本来は木であったことを気付かせる](https://ryukyushimpo.jp/tachyon/2023/11/t-3.jpg)
同展は来年1月21日まで。観覧料は一般1200円、学割あり。会期中は関連イベントもある。詳細は県立博物館・美術館のホームページ、電話098(941)8200。
1973年生まれ。多摩美術大卒。米ニューヨークのスクール・オブ・ビジュアル・アーツ修士課程修了。ドイツ・ベルリンなどを拠点に国内外の展覧会に参加。