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フランスで琉球芸能披露 言語、文化超え感動呼ぶ 河瀬直美エッセー <とうとがなし>(21)


フランスで琉球芸能披露 言語、文化超え感動呼ぶ 河瀬直美エッセー <とうとがなし>(21) 「前の浜」を披露するリュウカツチュウの3人(C)Takeshi Dodo)
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 スタンディングオベーションが起こった。会場の後ろの方の席に座っていた男性が立ち上がって拍手をすると、その波は時間をかけて前の席の方々へ伝わっていった。鳴り止(や)まない満場の拍手と笑顔。横を見ると、演舞を終えた3名の若手琉球芸能実演家が誇らしげにその光景をただただ見つめている。感無量とはこのような状態のことを言うのだろう。

 ここはフランス・地中海に浮かぶ世界で最も美しい島のひとつとして名高いコルシカ島のポルトベッキオという町。2022年のなら国際映画祭にて復帰50年を記念して沖縄特集をした流れから、映画祭の海外イベントとして今月初め、琉球芸能の若手グループ「リュウカツチュウ」のフランス公演をプロデュースした。

 ポルトベッキオ公演の会場は町の中心部にあるシネマテークのホール。土曜日の午後8時半から始まった琉球芸能の公演は、祝いの座に興じる喜びを歌三線の棚原健太さんと箏の町田倫士さんが「夜雨節」と「浮島節」で表現し、舞台の幕を開けてくださった。演奏が終わると大きな拍手がもたらされ、最初からお客様の満足度がひしひしと伝わってくる。

 続いては「瓦屋(からやー)」。今回は「月」をテーマに四つの演舞で構成した。月の光は地球の生きとし生けるものに等しく静かな光を届ける。心の深いところに届くその光の美しさを体現するように紅型衣装を身につけた立方・高井賢太郎さんが艶(つや)やかな舞を披露する。沖縄から大事に大事に持ってきた本紅型の幕が一層その空間を「オキナワ」へ誘う。

 第3幕では、コルシカと沖縄の繋(つな)がりを構成するように音楽メドレーにて「子持節(くゎむちゃーぶし)」からコルシカの子守唄、「上を向いて歩こう」、そして最後は「月の夜節(ちちぬゆぶし)」で月夜の恋物語へと繋いだ。特に地元の歌手が三線と箏の旋律に合わせて子守唄を歌うところでは涙する人もいて、出合うはずのない異文化が融合する瞬間に心が震えた。

 クライマックスは「前の浜(めーぬはま)」。沖縄には歌や踊りでお祝いすることで、明るい未来が現実に起こると信じる予祝の文化がある。場を清めるように打つ柏(かしわ)手はそのリズムも相まって会場からは、踊りに合わせて手拍子が鳴り響いた。盛況のうちに音楽が終わり暗転。その後に舞台に登場した3名の若手はやり切った心地良い微笑(ほほえ)みを浮かべて観客にしっかりと頭を下げる。

スタンディングオベーションをする観客(C)Takeshi Dodo)
スタンディングオベーションをする観客(C)Takeshi Dodo)

 「伝統芸能に従事することは人としてどう生きるかということを学ぶことにつながる」と悟るようにお客様にメッセージを投げた高井君。「芸能を通して共通の感覚がコルシカと沖縄に存在することを実感し、文化や言語が違っても、人はその営みの根底に芸能を存在させていることを発見した」と棚原君。「沖縄に戻って自分たちのやっている芸能がどう社会に関わっていけるか、技の継承だけではなく世界ともっと関わり拓(ひら)いてゆきたい」と夢を語る町田君。

 彼らの言葉を聞いていて「変わらないもののために変えてゆく」という感覚が沸き起こった。頼もしいなぁ。沖縄には世界的にみても稀有(けう)な文化が存在する。がしかし、それを伝える間口が狭いと、届くものも届かない。

 今回のフランス公演は国際交流基金の助成を受けて成立し、コルシカ島の他にパリでも開催できた。パリの観客からは、今の世界情勢に対するネガティブな感覚を払拭するように沖縄からこんな素敵なメッセージを届けてくれてありがとう、との言葉をいただいた。

 沖縄から届ける平和への感覚。闇の中の光の美しさ。一見美しく見える島にある、多くの涙の歴史。沖縄の歴史と文化を考え続けることは世界の平和を想うことだ。人類はどこへ行くのか。これからも考え続けてゆきたい。

筆者(左から2人目)とリュウカツチュウの町田倫士さん(左端)、高井賢太郎さん(左から3人目)、棚原健太さん=3日、フランスのポルトベッキオ©Takeshi Dodo

 (映画作家)