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【深掘り】“脱1000円”ステーキ、新ブランディングに注目 円安逆手にインバウンド集客も 沖縄


【深掘り】“脱1000円”ステーキ、新ブランディングに注目 円安逆手にインバウンド集客も 沖縄 ステーキ(イメージ)
この記事を書いた人 Avatar photo 島袋 良太

 県民食の一つにもなったステーキ。近年は手頃な「千円ステーキ」が浸透したが、業界は牛肉輸入価格高騰の波をまともに受けている。関係者は「今や沖縄そばも1杯千円近い。ステーキ、ライス、スープを千円で提供するのは無理だ。千円ステーキからの脱却が業界内の議論の中心だ」と話す。適正な価格転嫁と同時に、訴求力のあった「千円ステーキ」に代わる新たなブランディング戦略も求められる。円安に対応し、旺盛な消費が見込まれるインバウンド(訪日客)向け高級店や海外展開を本格化させる企業も出てきた。 

 「やっぱりステーキ」を経営するディーズプランニング(那覇市)は、5年後に海外店舗を国内並みの3桁台まで増やす計画。義元大蔵社長は「やっぱり」ブランドの店舗で設定する価格水準は「その国の平均時給を参考に設定している」と説明する。

■豪州では仕入れも

 2023年に初進出したオーストラリア。最低時給は日本平均の倍以上の約2600円。200グラムのステーキで販売価格は30・9ドル、日本円にして約3300円だ。「円安の中で海外は利益率が高い。沖縄を拠点に外貨を稼ぐ」と説明する。

 オーストラリアでは店舗展開だけでなく、日本で供給する牛肉の仕入れ拠点にする。直接買い入れで原材料価格を抑える「一石二鳥」を狙う。義元社長は「いずれは千円ステーキを定番メニューに復活させたい思いはあるが、今は別の経営展開が必要だ」と説明した。

 他方で着目するのは円安で財布のひもが緩んだ外国人観光客。6月に国際通りにプレオープンした新業態の1号店は客単価1万5千円を目指す。扱うのは厚切りのUSプライム牛や和牛。米国の高級ステーキ店などが採用する長時間の定温調理法を使うため、完全予約制の高級路線とする。

オーストラリアシドニーの「やっぱりステーキ」
オーストラリアシドニーの「やっぱりステーキ」

 総務省統計によると、今年4月の牛肉の小売価格(東京)は輸入が2020年度比で約29%上昇したのに対し、国産牛はむしろ同3・2%下落と低迷している。物価高騰で消費者の生活防衛意識が高まり、和牛の消費が伸び悩む中、畜産農家からは経営を維持できないと悲鳴も上がる。外国人観光客にいかに和牛を売り込むかは沖縄の畜産にとっても重要だ。

■「重層的な展開を」

 「沖縄ステーキ地域ブランド推進協議会(COOKS)」として活動してきた経営者らが立ち上げた「一般社団法人沖縄ステーキ協会」。事務局を務める伊波貢氏は「価格を千円に据え置き、肉のサイズを小さくしてしのいできた店もある。これ以上のサイズダウンは消費者の反発を招いてしまう」と話す。

 今後は「普段から食べられる安価な肉、国内観光客向けの少し高い赤身肉、インバウンド(訪日客)向けの高級和牛など、客層に応じた商品をそろえることが重要だろう」と強調。同時に「リスク分散のためにステーキ以外を扱う店も展開し、縦と横で対応する必要がある」と指摘した。

 「県民にとってステーキは文化であるという価値を強みに、那覇空港に『ステーキ村』をつくったり、国際通りにモニュメントをつくったり、意識醸成やブランディングで市場を広げていくことが大切だ」と話した。 (島袋良太)