夜のサンゴ礁は、ちょっとあやしい世界。岩陰にそっと眠る魚のかたわらで、水中に華やかな姿をあらわすものたちがいます。
鳥の羽を円形に広げたように見えるのは、ケヤリムシの仲間。美しく繊細な姿ですが、実はゴカイの仲間で、広げているのは頭にある「鰓冠(さいかん)」と呼ばれる部分。ここで呼吸をしながら、流れて来るプランクトンを捕えます。
イソギンチャクやサンゴも、夜にのびのびと触手を伸ばします。触手がたくさんうごめくさまは、暗い水中であやしい魅力を放ちます。でも、ここには刺胞(しほう)という毒針の細胞があって、私たちが触れてはいけない場所です。
ところで、なぜ夜に触手を広げるのでしょうか?
実は、動物プランクトンが海の表層で活発に泳ぎ回るのが、夜なんです。彼らは、昼間は天敵の魚や太陽の紫外線を避けるために深い場所にいて、夜暗くなると浅い場所に上がって来ます。そのため、浅瀬に暮らすイソギンチャクのような生き物たちは、夜、彼らを捕まえようと触手を広げて待ち構えているんです。
自分はじっと動かず、触手を広げて餌を待つ、という暮らしが成り立つのは、水中にそれだけプランクトンがたくさんいる証拠。陸上では、似た生き方にクモの巣がありますが、クモは自分の体の何十倍も大きな巣を張らないといけません。海の中では、小さな体の小さな触手を広げるだけで十分。まるでプランクトンのスープの中に住んでいるようなもので、これも海ならではの生き方の一つなのです。
Vol. 9 ホンケヤリムシ
Sabella fusca
● 目:ケヤリムシ目 Sabellida
● 科:ケヤリムシ科 Sabellidae
● 属:ホンケヤリムシ属 Sabella
ホンケヤリムシ 2018年11月23日 場所:カーミージー(浦添市)
イトツキハナギンチャクの仲間 2018年11月23日 場所:カーミージー(浦添市)
イワスナギンチャクの仲間 2018年11月23日 場所:カーミージー(浦添市)
キクメイシモドキ 2018年11月23日 場所:カーミージー(浦添市)
動画撮影・編集&執筆
鹿谷法一(しかたに・のりかず しかたに自然案内)
琉球大卒、東大大学院修了、博士(農学)。広島に生まれ、海に憧れて1981年に沖縄へ。専門はカニなどの甲殻類。生き物の形とはたらきの関係に興味がある。最近は、沖縄の貝殻を削って磨くシェルクラフトを行っている。
鹿谷麻夕(しかたに・まゆ しかたに自然案内)
東洋大、琉球大卒。東大大学院中退。東京に生まれ、20代半ばでサンゴ礁に興味を持ち、1993年に沖縄へ。2003年より、しかたに自然案内として県内で海の環境教育を始める。しかたに自然案内代表。手作りぬいぐるみで海を伝える、あーまんシアターも主宰。
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