prime

アンバサダー尚玄さんが語る「第一回 Cinema at Sea-沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル」の見どころ


アンバサダー尚玄さんが語る「第一回 Cinema at Sea-沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル」の見どころ
この記事を書いた人 Avatar photo 饒波 貴子

2023年11月23日、沖縄で新たな映画祭が開幕します。その名も「Cinema at Sea-沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル」。環太平洋地区を対象に映画を通じて新しい価値観を提言するというこの映画祭は、沖縄が国際交流の場になることを目指していくと宣言しています。アンバサダーを務めるのは県出身の俳優、尚玄さん。最近は主演作『義足のボクサー GENSAN PUNCH』でフィリピンのブリランテ・メンドーサ監督、『赦し』でインドのアンシュル・チョウハン監督というアジア出身の監督たちと作品づくりを共にし、また世界各国の映画祭にも招待されている尚玄さんならではの視点で情報を発信しています。初開催となる映画祭の見どころを聞いてみました。

聞き手:饒波貴子(フリーライター)

ここでしか見られない、多様性のある映画を上映

―沖縄で新たな映画祭を開催。どのような思いでアンバサダーを務めていますか?

沖縄はアジアの玄関口で、琉球王国時代に貿易が栄えていた歴史的背景もあります。加えて観光地としての魅力もあるので、国際映画祭の開催地として最適な場所だと信じてきました。俳優活動を通して沖縄の良さを伝えてきましたが、この映画祭がスタートすることでより深く故郷・沖縄をアピールできるのではないかと思っています。沖縄で国際的な映画祭を開催することは実は長年の夢だったんです。自分だけで立ち上げるのは困難ですし、本映画祭にアンバサダーとして関われてありがたく思っています。以前からの知り合いだったエグゼクティブディレクターの黄インイクさんの声掛けでコンセプトを知り、参加を決めました。映画祭の概要や上映作品の魅力を自分の言葉で伝え、ひとりでも多くの方に会場に足を運んでいただきたい、という気持ちで取り組んでいます。

―記者会見は東京で行なったとのことで、本土からメディア関係者や映画ファンが来沖しそうですね。

会見には多くのマスコミの方が来ていて反応も良く、広がりを期待しています。イランの巨匠アミール・ナデリさんはじめ女優の伊藤歩さんたちが審査員を務めてグランプリ作品を選出しますし、すてきな映画祭になりますよ。

10月11日に行われた「ラインナップ発表記者会見」(東京都内)
10月11日に行われた「ラインナップ発表記者会見」(東京都内)
コンペティション審査員長を務めるのは、
イランの巨匠アミール・ナデリ(Amir Naderi)監督

―ズバリ、本映画祭のポイントを教えてください。

「Cinema at Sea 太平洋、海をまなざし、海を知る」をテーマにした本映画祭は、環太平洋の国々にフォーカスした多様性のある37作品を上映します。劇映画にドキュメンタリーなどジャンル豊富で、日本初上映の作品も多く、ここでしか見られない数々の作品を上映する貴重な機会になります。映画祭の醍醐味を味わっていただけるプログラムを準備中です。

尚玄さんチョイスのおすすめ作品

上映作品の見どころをアピールするため、事前に鑑賞しているという尚玄さん。なるべく多く鑑賞するよう努めているとのことで、見終わった中でのおすすめ作品を教えてもらいました。


オープニング上映 ジャパン・プレミア『オキナワより愛をこめて』

2022年/日本・アメリカ/監督:砂入博史

大宜味村出身の写真家、石川真生さんが主役のドキュメンタリーです。彼女は復帰のころのコザや金武の街で黒人兵と恋をする女性たちの写真を撮り作品集にしましたが、その記憶をたどり当時のバーやクラブを訪ねる姿を映し出すのが本作です。そこで生きた女性たちへの人間賛歌といえる内容だと思います。沖縄県民にも他県の方にも見ていただきたいですし、米軍関係者の方にも見てほしいすてきな作品です。

(C)石川真生
(C)石川真生

Director in Focus部門 ジャパン・プレミア『アキコと過ごした八月』

2018年/アメリカ/監督:クリストファー・マコト・ヨギ

ハワイ出身で沖縄4世のクリストファー・マコト・ヨギさんの世界観がある、神秘的な作品です。今回は特集上映として彼の4作品を紹介しますが、ご本人が来沖予定です。自身のルーツである沖縄で特集上映が組まれ、初めて訪れる意味深さがあります。

国際的に評価されている
クリストファー・マコト・ヨギ監督は、
ハワイ生まれでルーツは沖縄

スペシャル上映『最後の楽園コスタリカ ~オサ半島の守り人~』

2015年/アメリカ/監督:オースティン・アンドリュース

コスタリカ共和国の自然保護を映し出すドキュメンタリーです。自然豊かで貴重な生き物が生息しているオサ半島ですが地元の人々は恵まれた環境に気付かず、外から来た研究者のおかげで理解を深めていきます。やんばるを含め美しい自然に囲まれた沖縄にも当てはまる問題が描かれている作品、だと思いました。飛行機に乗り上空から沖縄を眺めた時、やんばるの山の変化を目の当たりにし危機感を覚えることがありますからね。


コンペティション部門 インターナショナル・プレミア『BEEの不思議なスペクトラムの世界』

2022年/ニューカレドニア/監督:ファビアン・ローブリー

自閉スペクトラム症の女の子が主役。彼女は人と会話をするのが苦手ですが歌うことが得意で歌詞を書き、歌手としてデビューすることで自立を目指します。その姿が本当にすてきで、きっとインスパイアされることでしょう。出演者や監督の来沖が予定されています。


スペシャル上映 オキナワ・プレミア『あなたの微笑み』

2022年/日本/監督:リム・カーワイ

北海道から沖縄までのミニシアターを巡る、ハーフドキュメンタリー形式のロードムービーです。首里劇場の金城政則館長の生前のお元気な姿が映っていて、ハブ拳法のポーズをとったり劇場を走り回ったりしています。首里劇場は取り壊され、小倉昭和館は昨年焼失しましたが、お客さまを迎えていたころを思い出させてくれます。ミニシアターは存続をかけて大変な時期を迎えていますので、記録という意味でも貴重な映像でしょう。本人として出演している方もいれば、役を演じる俳優もいるハートフルコメディー作品。沖縄の成金を演じている僕に注目してください(笑)。

気軽に参加できる映画祭に

―他にもたくさんの部門やプログラムを予定していますね。

「マブイ特別賞」受賞者・高嶺剛監督と高嶺組の過去の3作品、『サシングヮー』(1973年)、『パラダイスビュー』(1985年)、『夢幻琉球・つるヘンリー』(1998年)を上映しますので、僕自身とても楽しみにしています。あざまサンサンビーチ(南城市)が会場になる野外上映、VRカメラで撮影した映像の体験上映もあり、複数の上映形式が楽しめます。関連企画は沖縄を映画文化の中心地として推進するインダストリー事業がスタートし、作品のピッチング(提案や売り込み)の場が開設されます。これまでたくさんの沖縄映画が製作されましたが、脚本に盛り込まれそうなストーリーがまだたくさんあると思うんです。作品のアイデアをピッチングして、「撮ってみたい」というプロデューサーや出資者に出会えたら映画化につながるかもしれません。本映画祭をきっかけに映画が生まれるかもしれない、と考えると夢がありますよね。実現する可能性がある事業だと思っています。沖縄で映画企画のピッチングが行われるのは、初めてではないでしょうか。

―この映画祭でいろいろな交流が始まり映画が誕生するかもしれない、など考えるとワクワクしますね。

数年後に映画が完成し上映されたら本当にうれしいです。映画祭と聞くと華やかで敷居が高いイメージがあるかもしれませんが、気軽に映画を見る場であってほしいと僕は思っています。「面白そうな映画をやっているから行こうよ」と地元のみなさんが会場に足を運んで楽しく鑑賞し、ゲストの方たちと会話をしながら意見交換するなどの交流の場があるといいなと考えています。「一般人も映画祭で映画を見ることができますか?」とよく聞かれますが、一般の人にこそ見ていただきたい。そういうスタンスで本映画祭に取り組んでいきたいですね。

―各国の映画祭に参加していますが、印象に残っているのはどういう場面ですか?

ここ最近だと「ウーディネ・ファーイースト映画祭」です。今年25周年を迎えたイタリアの映画祭で、ウーディネという街でアジア映画を紹介してきました。観客のみなさんが熱狂的に僕らを迎え、上映後は感動するくらいの拍手や喝采を浴びます。ワイナリーの方は毎日ゲストのためにワインのテイスティング会を開き試飲させてもらって購入できるなど、地元の人たちが映画祭に協力して支えている様子も印象的でした。沖縄にも泡盛はじめたくさんの名産品があるので、映画祭に来場した方たちにアピールできるといいと思います。多くの可能性を秘め、広がりが期待できるイベントになると思っています。

―映画をきっかけに国籍や年齢問わず、みんなで交流するのはすてきですね。

ボランティアスタッフ募集には、高校生をはじめいろいろな世代から問い合わせがありました。僕自身高校生のころは映画に夢中で、國映館やグランドオリオンで見ることが何よりの楽しみでした。幼いころから映画好きだったので、親に連れられて行った記憶も鮮明に残っています。「友達も誘っておいで」と親父が映画館に結構な人数を連れて一緒に行ってくれたことがあり、特別な思い出になっています。映画の内容はあまり覚えていませんが(笑)、誇らしかった気持ちは忘れられません。若い世代は配信で番組や映画を視聴し映画館に行く人が減っている現実がありますが、行ってみるといいものですよ。近くに座った人たちと笑い合ったり、すすり泣きにつられて涙が出てきたり。暗い館内でスクリーンに没頭し、スマホにも邪魔されない環境での映画鑑賞はとても良い体験です。若い人の記憶に映画体験を刻めるように、活性化を図っていければという思いがあります。本映画祭のチケットは、学生料金を500円に設定しています。当日会場で販売しますので、学生のみなさんにたくさんの映画に触れてほしいです。

―最後にメッセージをお願いします。

環太平洋地区の多種多様な作品を上映する映画祭がスタートします。プログラムチームが厳選した良質な作品を楽しんでいただけますので、ぜひ会場に足をお運びください。世界に誇れる有数の映画祭を目指しての開幕で、沖縄はそのポテンシャルを秘めていると信じています。成功し継続していくためには、みなさまに来場いただくことだと思っています。ふらっと遊びに来る感覚で気楽にお越しください、お待ちしています。

撮影協力:シーフードレストラン「El Faro(エルファロ)」

インフォメーション

第一回Cinema at Sea – 沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル

期間:11月23日(木・祝)~29日(水)
会場:那覇市ぶんかテンブス館 テンブスホール他

内容:公式コンペティション作品上映、特集上映、トークイベント他

公式サイト https://www.cinema-at-sea.com/

チケット情報:前売り1000円、当日券1300円/学生500円(当日会場販売のみ、入場時に学生証の提示が必要)

※前売り券は以下のURLとファミリーマート店内のマルチコピー機にて発売中
 https://www.funity.jp/tickets/cas/showlist

饒波貴子

 のは・たかこ 那覇市出身・在住のフリーライター。学校卒業後OL生活を続けていたが2005年、子どものころから親しんでいた中華芸能関連の記事執筆の依頼を機に、ライターに転身。週刊レキオ編集室勤務などを経て、現在はエンタメ専門ライターを目指し修行中。ライブで見るお笑い・演劇・音楽の楽しさを、多くの人に紹介したい。