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消滅危機の「与那国語」でラップ 沖縄で2人の若者「失いたくない。興味持つきっかけに」【動画あり】


消滅危機の「与那国語」でラップ 沖縄で2人の若者「失いたくない。興味持つきっかけに」【動画あり】 与那国語のラップをミックスした「夜の祭」をリリースした沖縄電子少女彩さん(左)と東盛あいかさん=4月16日、那覇市泉崎の琉球新報社(又吉康秀撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 嘉手苅 友也

 レーベル「SHISA SOUND WAVE」から、世界初となる与那国語(どぅなんむぬい)ラップがミックスされた曲「夜の祭~ユルヌウマチー~」が6月1日にリリースされた。沖縄市出身のミュージシャン沖縄電子少女彩(23)と俳優や映画監督として活躍する東盛あいか(26)のコラボ曲。2人に共通するのは「現代の音楽を通じて、言語に興味を持ってもらうきっかけを」との思いだ。

きっかけはSNSでの“バズり”



 きっかけは昨年。東盛が与那国語のラップをSNSに投稿すると一気に拡散された。その投稿を見た彩は感動したといい、東盛に与那国語ラップを取り入れたコラボを打診した。与那国語を発信したいという思いを持つ東盛も「沖縄語で前衛的な曲を歌う彩となら新しいものができる」と思い、引き受けたという。

与那国ラップの動画を投稿した東盛あいかさんのX(旧Twitter)。5月31日現在で閲覧回数は100万回を超えている

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)は、日本国内の八つの言語を「消滅危機言語」としている。アイヌ語、八重山語、八丈語、奄美語、国頭語、宮古語、そして今回の「夜の祭」で使われている沖縄語、与那国語だ。


 東盛、彩ともに故郷の言語に興味を持ったのは地元を離れてからという。彩は上京後、外から見ることで沖縄の良さに気付き、アイデンティティーを大事にする気持ちで沖縄語を勉強し始めた。東盛は映画を撮るようになった頃から、沖縄や与那国そして与那国語の勉強を始めた。SNSに投稿したラップは与那国語の辞典を引きながら「韻」を踏む歌詞を作った。

「夜の祭」のジャケット

悲しい歴史、喜怒哀楽も包み込んで


 コラボ曲の「夜の祭」は、作曲と編曲を彩が担い、2人で作詞した。彩がメロディーパートを沖縄語と標準語で書き、それを受けて東盛が与那国語で詞を書いたため、掛け合いのような曲構成になっている。

 彩のメロディーパートは沖縄の先祖崇拝や、戦争などの悲しい歴史、島で出会った人たちが喜怒哀楽を共にして今があることなど、言葉で情景が浮かび上がらせ神秘的に歌う。

 対する東盛は先祖が現世を見守る目線や自身の祖父、祖母に語りかけるような言葉などを小気味良よくラップにした。「ハララルデ ハララルデ」と与那国語で子どもをあやす言葉や、「ウーストゥイ」と願い事をするときに唱える言葉などを入れた。

沖縄電子少女彩さん(左)と東盛あいかさん

 沖縄語や与那国語になじみのない人にも聴いてもらうため、歌詞に「知らんちゅ」や「まぶい」など平たい沖縄語を入れ、標準語で歌う箇所もあるなど工夫を凝らした。

 彩は配信ライブで沖縄語を使うと、海外の視聴者にまねされたり、縁起がいいことを意味する「かりー」という言葉がアルファベットのメッセージで送られてきたりしたことがあるという。東盛は、SNSに投稿した“与那国ラップ”に海外から「こんな言葉が世界にあったんだ」「あの国の言葉に似ているね」などの反応をもらったという。

東盛さんがXで紹介した与那国語でのLINEのやりとり

 彩は「(沖縄語を)完全になくすのはやっぱり嫌だし、自分の先祖たちが使ってきた言葉を大事にしたい。それを現代の音楽、ラップで楽しんでくれたらいいな」と思いを込める。東盛は「(言語に)興味を持ってもらえるきっかけになるのが一番。この曲ができた意味がある。母語話者の方々は世代的にいなくなってしまっても、言葉を学んだ世代が話すことも含め、音楽やいろんな術で残していくことはできる。それが今回の(音楽という)形になったと思う」と話した。

 「夜の祭」は6月1日に各種音楽ストリーミングサービスでリリースされ、YouTubeでミュージックビデオも公開される。

(嘉手苅友也)