世界的ヘヴィメタルバンド「Megadeth (メガデス)」のギタリストとして知られるマーティ・フリードマンが、新アルバム「ドラマ―奇跡―」をリリースした。「沖縄のメロディーは僕のストライクゾーン」と語るマーティは、古謝美佐子と夏川りみがデュエットした「童神」が大好きで、琴線に触れる理由を分析したという。新アルバムにも沖縄の音楽をモチーフにしたメロディーが入った曲がある。マーティの目指す音楽や沖縄の音楽から感じることを聞いた。(聞き手・嘉手苅 友也)
マーティのギターは歌い、人を泣かせる
―今年でソロデビュー37年目を迎えました。どんな音楽を目指しますか。
ストーリー性のある音楽を目指しています。うまいぜ!と、ただ技術をアピールするギターソロよりも深いところ。例えば、クラシックコンサートで全く知らない曲なのに、なぜか無意識に涙が出てきたり、鳥肌が立つ瞬間があったりするじゃないですか。僕はその現象を深く分析して、自分の音楽にその成分をたっぷり入れようとしているんです。
―演奏の時に意識するポイントとは。
一番のこだわりは、ギターという「楽器」よりも、「人の声」と同じような役割をしようしています。僕は、インスト音楽はそんなに長く聞けないので、ストーリーキャラみたいな存在感がほしい。だから、ギターが主人公のような、ボーカルの役割を目指している。
24時間、頭の中にはメロディー
―曲作りをどのようにしていますか。
いろんなパターンがあるけれど、共通点はメロディーがメインですね。何を弾いても必ず録音します。数週間後に(録音を聞き直して)弾き方を忘れたら、完全に白紙の状態で聴けるので、すごく正直に感想を言える。このメロディーはゴミとか、このメロディーはとてもすてきだから、こんな曲になりそうとか。その段階になったら本当の作業が始まります。
―曲作りのため頭の中にメロディーがずっと鳴っている?
僕はもう24時間ずっと音楽が流れてるんですよ。いったん置いたメロディーも、頭の中で何回も同じメロディーが回ってくると、「やっぱこのメロディーいいことあるかもしれない」と思って、楽器を出して録音する。逆パターンもある。レストランでBGMとか聞いて、好きなセクションがあったら、家まで帰る間ずっと覚えている。時間がたったら少し違うものになっちゃうから、イメージで覚える。そしたら丸パクリじゃなくて、自分のものになるんですよ。
―人が音楽を聴いて感動する理由とは。
僕の持論なんですけど、脳みそは倉庫みたいなもので、(過去に聴いたことのある)メロディーとかフレーズとか、人生の全部のデータが入っていると思う。だから、その(聴いて感動する)メロディーが4歳の頃、お母さんと公園で散歩した時に、誰かが演奏したメロディーだったとか、すてきな思い出と(メロディーが)つながるんだと思う。僕は自分の子どもの頃のマニアックなメロディーとかを持ち出して、分析して曲に入れたりする。メランコリーというか、切ないメロディーとか目指したら、もしかしたら、リスナーが忘れている思い出を再生させるかなと。
「童神」は大好きすぎて鳥肌が立つ
―沖縄風のメロディーを感じる曲もアルバムに収録されています。
沖縄のメロディーとか代表的なサウンドは僕のストライクゾーン。切ないけどなぜか思い出が出てくるような、感動的なメロディーが多い。僕は沖縄育ちじゃないから、子どもの頃からのつながりはないはずなのに、例えば、「涙そうそう」みたいな代表的な曲を聞いたらすごく感動する。
あと、三線の旋律が日本の三味線のメロディーと違う。音階も全く違う。ちょっとトロピカルな、日本よりマレーシアとかインドネシアとかに近い。
「Mirage(ミラージュ)」という曲は、曲の真ん中に沖縄風のモチーフを作りました。海外のリスナーがそのメロディーセンスを聞いたら非常に新鮮に思ってくれると思う。沖縄の人が聴いたら「沖縄の雰囲気を盗んでるじゃん」とか言うと思うんですけど、その武器を恥知らずに利用している(笑)。沖縄の人がミラージュを聞いてくださったら反応を聞きたいですね。
―沖縄の音楽に興味を抱いたのはいつからですか。
日本に来たばかりの時に、高良レコードのギターセミナーに呼んでもらって、沖縄の代表的なサウンドを初めて知った。それから日本と違う沖縄のメロディーを勉強し始めました。沖縄の人は親切で、みんなが似たような服を着ている。着いた瞬間から落ち着ける。僕、大好きですよ! 古謝美佐子さんの「童神」は大好きすぎて、夏川りみさんがハモる時に必ず鳥肌が立つ。前の話につながるけれど、それ(鳥肌が立つ理由)を分析した。
―「童神」の気に入ったところとは。
一番は優しさ。どうやって、そんな優しさを伝えるか。2人の楽器は声。僕の楽器はギター。僕は同じように優しさを伝えたいので、一音一音、まずメロディーを弾いてみる。どうやってこぶしをするのか、ささやくのか、強く歌うのか、どう音節を丸くするのか、硬くするのか。自分なりにギターでまねしたら、少し2人のエモーションを自分のものにできる。ギターの揺らしとかも、沖縄なりの揺らし方があるじゃないですか。それを(自分の曲の中で)ふさわしい時に、ギターでまねするように弾きます。
―沖縄のアーティストとコラボをしたいですか。
ガチ、コラボしたいですね。何より、古謝さんと夏川さんと何か一緒にできたら。
長い旅の末、たどり着いた究極の1曲
―アルバムに込めた思いとは。
アーティストやミュージシャンの人生はドラマチックだと思うんです。安定した仕事じゃないから、必ずアクションやストレスがある。僕の1番のストレス発散方法は好きなアーティストの音楽を聴くことだから、誰かにとって同じような存在になれたらうれしいです。本当に人生がハードなときや辛いときに、マーティのCDを聞いたらちょっと元気が出るとか、乗り越えられるようになるとか。
―30年前以上から繰り返しリリースされてきた曲「トライアンフ」がついに完成した。新アルバム「ドラマ―奇跡―」に収録されている。
この曲は長い旅ですよ。87年に録音してアルバムに入れようと思ったけれど、録音の最中にアンプが爆発して未完成でした。本当の話(笑)。
次のチャンスは、初の総合アルバム「ドラゴンズ・キス」に「サンダー・マーチ」ってタイトルで完成して発売した。NHKのオリンピック番組にも使ってもらったんですけれど、実は僕はそんなに満足いってなかった。この壮大な曲を作るのに、当時はかっこいい演奏だけを目指したので、そんなスキルはなかったと思います。
次に1992年「トライアンフ」としてアルバムに発売したんだけど、全部シンセでやりました。僕は、音はしょぼいと思いますね。96年にボーナストラックとして、アンプが爆発したバージョンを完成させたんだけど、それも微妙でした。
2007年にライブアルバムに入れたんだけど、それはライブバージョンだから、これぞトライアンフという、良いバージョンはまだでした。
だから今回時間かけて、いろんなオーケストラのアレンジャーと一緒にコラボした。ものすごく試しながら最終的には、これぞトライアンフというバージョンができて、やっと眠れるようになりました。