オリオンビールがコロナ禍でも新商品を次々に出せる理由【WEB限定】


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 オリオンビール(沖縄県豊見城市、早瀬京鋳社長)が次々に新商品を発売している。2020年はリニューアルも含めて1年間で新たに25商品を発売。1カ月に2品というハイペースだ。商品開発部門は5人と人材を大量に投入しているわけではないのに、これだけハイペースで新商品を出すことができるのはなぜだろうか。オリオンビールを取材した。(玉城江梨子)

■圧倒的なスピード感

オリオンビールが2020年に発売した商品の一部

 12月4日、オリオンビールは読谷産いちご「ベリームーン」を使った缶酎ハイ「WATTA(ワッタ)いちごスパークリング」の発売を発表した。WATTAの新商品は今年11品目。20~30代の女性をメーンターゲットにした同ブランドは5月のリニューアル以降、2カ月ごとに新商品を投入している。オリオンビールが力を入れる商品であり、今の同社の勢いを象徴する商品でもある。

 RTD(酎ハイやカクテル)だけではない。ビール・ビール類も看板商品の刷新、新ジャンルでの積極的な商品展開、プレミアムクラフトビールという新たな市場開拓と攻めの姿勢を鮮明にしている。

「WATTAいちごスパークリング」を発表する(左から)石井芳典部長、石嶺伝実読谷村長、日立トリプルウィンの相島正美社長=12月4日、読谷村役場

 「大手だと商品が完成するまでに平均9カ月かかるが、オリオンビールは平均3カ月。回転が速いんです」。石井芳典執行役員R&D部長は明かす。

 商品開発には①どのフレーバーにするかを決める「プロトタイプセレクション」②いくつかのサンプルを飲んでもらう「消費者テスト」③テスト製造④本製造―の大きく4つのステップがある。大手メーカーだとそれぞれのステップで関係者の「承認」が入り、それぞれの過程で1カ月程度かかる。そのため、どうしても9カ月という時間が必要なのだ。それに対し、オリオンビールは執行役員でもある石井氏の承認だけで物事が進む。決裁者が少ないため、次のステップに進むスピードが圧倒的に速いのだ。

■「このままではダメだ」

 商品開発の全責任を負う石井氏は2019年8月、オリオンビールに入社した。前職の日本コカ・コーラでは一貫して製品開発に従事。コカ・コーラ上海R&Dセンターを設立し、アジア・パシフィックエリアで年間200製品以上の配合開発を担当してきた。

 「変わろうとしている会社がこのままではダメだ」。オリオンビールに入社してすぐ、石井氏は気づく。消費者の好みやトレンドは変化するのに、看板商品の「ドラフト」は5年間リニューアルをしていなかった。そのほか原材料や配合を少し変更することがあっても、それがPR、商品パッケージと連動せず、変更のポイントを消費者に十分伝えきれていなかった。

 さらに商品開発のスピードが遅かった。1人の人間がゼロから商品開発をするため、どうしても1つの商品ができあがるまで時間がかかっていた。「サプライヤーは大手で、オリオンは中小企業という意識で、外部サプライヤーの活用が十分でなかった」と石井氏は指摘する。

 ゼロから作るのではなく、酎ハイで使うフレーバーのメーカーに試作品レベルに近い物を提供してもらうことで、最初の製造過程のプロトタイプセレクションにかかる時間を削減するなどして、開発時間を短縮した。

■マーケティングとの連携

 以前と変わったことの一つに「消費者テスト」の実施がある。どの商品も必ず消費者テストを実施し、沖縄県民が好む味を商品化している。これは石井氏が前職で採ってきた手法でもある。「味の好みはその土地で全く違う。商品の安全性に関わる基本的なルールは私が徹底するが、最終的な味を決めるのは沖縄出身の社員を初めとする地元の人」と強調する。

 積極的に商品展開しているが、初めからうまくいったわけではない。最初はこれまでのやり方を変えることへの抵抗感が強く、特にストロング系酎ハイからの撤退は、沖縄の市場の50%をストロング系酎ハイが占めていたため、しばらくは賛同を得られず、開発者も変更することに戸惑いを感じていた。

 しかし、人材リソースを集約して作った低アルコール商品が売れたことで、開発者の意識が変わった。同時にRIZAP(ライザップ)やフォーモストブルーシール、A&W沖縄などこれまでできなかった企業間コラボをスタートさせたことが、開発者の刺激になっている。

新商品開発に向け試飲するマーケティング担当者と商品開発担当者=豊見城市のオリオンビール本社

 商品のアイデアはマーケティング部門との連携と消費者の声から生まれている。

 12月中旬、豊見城市のオリオンビール本社では商品開発担当者とマーケティング担当者が集まり、来年発売する新商品のプロトタイプセレクションを行っていた。この商品をどのように見せたいのか、そのためにはどんな味や風味がいいのか、消費者は何を求めているのかなどを話し合いながら、商品の方向性を決めていく。作る側とアピールする側で最初から意識を共有することが効果的な商品開発やプロモーションにつながっている。

 石井氏は「もともとオリオンビールは商品を作る力があった。だけどそれをアピールするのが下手だった。マーケティングと一緒に製品化していくことでうまく回り始めている」と自信を見せた。

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