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「女性力」に違和感、メディアの意識はどうなの?記者が一緒に考えた<ウェブセミナー「『女性力』の現実」取材の現場から・詳報>


この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子

国際女性デーに関連したオンラインイベントが28日開かれ、本紙の連載「『女性力』の現実 取材の現場から」の取材を担当する政治部の座波幸代記者と明真南斗記者、琉球大学法科大学院の矢野恵美教授が出演し、沖縄の政治分野で女性登用が進まない理由について語った。タイトルに「女性力」を入れた理由、取材から見えた不思議な構造、そしてジェンダー平等を発信する側のメディアの意識、琉球新報の内実は?(司会はデジタル編集グループの慶田城七瀬記者)

ウェブセミナーで政治や行政分野での女性登用をテーマに語った(左から)明真南斗記者、座波幸代記者、慶田城七瀬記者。画面上は琉大法科大学院の矢野恵美教授=28日、那覇市泉崎の琉球新報社

「女性力」に感じた違和感 新人記者のあるひとこと

ー企画を始めたきっかけは

明真南斗記者(以下明):新年号の連載を考える中で、SDGsの中から主に「ジェンダー平等のことをやりたい」と部員から上がった。

座波幸代記者(以下座波):政治部で新人の比嘉璃子記者から「県庁の審議会って男性ばっかりですよね」というフレッシュな視点があった。また、ある資料に女性が特別にみえる形になっていたのが違和感を感じたこともあった。そういう話が盛り上がってジェンダーでいこうとなった。

ー「女性力の現実」というタイトルになったのは

座波:沖縄県は「女性力平和推進課」を設置しているけど「女性力」という言葉自体が聞き慣れないし、なぜ女性だけ(「●●力」のような)ネーミングがされるのか違和感が政治部内でもあった。連載は政策決定、行政とか政治の部分に女性がいないという現実をあぶり出していくという企画なので、「女性力」という言葉への違和感や疑問を呈する意味であえてこのタイトルにした。

:「女性力」に賛同しているわけではないので、そのへんを知ってもらえれば。

>>【特集】「女性力」の現実 政治と行政の今

 

「子どもはまだ?」女性議員の壁とは

座波幸代記者

座波:選挙で女性が当選したら「初の女性」などとして取り上げてきたが、どんな経験をされてきたか、カバーできていなかったのが反省点だった。取材をしてみると、女性が社会的な役割を担う中で、結婚や出産に関する周囲の目が壁になっていると感じた。

 

仲村未央県議の取材では、励ましていた先輩議員が「僕は朝早い出張でも必ず朝食準備されていた、君もやりなさい」と言われた。結婚した途端、女性議員から「子どもはまだ?」とお腹をさすられたというエピソードを語ってくれた。

「性別の役割分業を押しつけられるんじゃなくてその人らしさを出していこう」と話していたことにハッとして、その部分を記事に出した。

 

 

米兵のわいせつ事件対応を考える委員会、約9割が男性

取材するメディアも合わせると約9割が男性だった県議会の米軍基地関係特別委員会

:ジェンダー報道に関わってから見る視点が変わってきた。県議会の特別委員会で取材していると、議員や県職員、メディアも合わせて40人いる中で女性は3人。9割以上が男性と思われる状況だった。その日は、米軍海兵隊員が女性にわいせつ行為したことで逮捕された事件について県議会としてどう対応していくかを話し合っていた。この件に限らず、基地問題は平等に被害をうけるものもあるが、女性であるがゆえに被害を受けることもある。そういう場で女性がほとんどいない、女性の意見が反映されにくいのは不自然だなと思いました。

矢野恵美教授(以下矢野):基地問題を扱う行政ににこそ、男女共同参画の理念を入れてほしいと思う。基地の中自体の男性優位社会ぶりがある。基地がたくさんある沖縄に影響していると思う。

 

苦しめる正体はすり込まれた「イメージ」

琉球大学法科大学院の矢野恵美教授

矢野:沖縄の政治分野で女性が少ない、行政で管理職が少ない、選挙中の性差別などがなぜ起きるか、という要因に固定的性別役割分担意識というものがある。内閣府男女共同参画局の調査によると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に対する意識は現在はだいぶ減って、2019年では女性は30%程度だが、男性では4割いる。どちらの考えでもいいが、現実をみると1996年に専業主婦世帯を共働き世帯が逆転した。妻がフルタイムで働いていようと、専業主婦でいようと、夫が働いている時間はほとんど変わらないという調査結果がある。女性の方にだけ負担が増えている。 固定的性別役割分担意識はすり込まれている。特に沖縄では長子相続問題もある。この意識は進路や職場での部署にも影響している。料理や子育ては女性がするべきという考え方、ここに根拠はなく、イメージでしかない。

 

ー法曹界の女性比率は?

矢野:今の固定的性別役割分担意識は法曹界にも影響している。ロースクールの女性の割合は3割だが、司法試験の合格率は2割くらいしか女性はいない。結局これが裁判にも関わる。性犯罪の時、なぜ遅い時間に女性が歩いていたのか、酔っ払っていたのか、というように、性犯罪で女性にしか言われないことが裁判でも言われる。それは圧倒的に男性が多いからだ。

 

男女を強調すると性的少数者の問題が抜け落ちる?

明真南斗記者

:今この企画では政治行政分野の男女格差、女性差別の問題、男女強調することで性別としてそこに分けられない人の存在が抜け落ちてしまうのではと懸念している。性的少数者のことをどうすればいいのか。

矢野:女性の権利もセクシャルマイノリティの権利も一緒にやるべきだと思っている。2つの理由がある。私たち全員がセクシャリティをもってる。法的な性別、日本では男女しかないけどみんなもってる。性的指向、性自認、表現する性、体の性、いずれもみんな持っている。女性の問題はその中で法的性別の問題。セクシャルマイノリティの問題は今話したセクシャリティのいずれかがマイノリティという人だから同じ問題になる。

もう1つ。女性差別の問題とセクシャルマイノリティの差別の問題がどこからきているかを考えてみると、それは本人が選んだわけではない。生まれもっているもの。一方でそれは恥じることではない。でも、そこに所属しているだけで圧倒的に差別を受けているという点で差別の構造が一緒だ。だから一緒に問題解決に向けて考えるべきだと思う。 女性の地位の不平等の問題を意識しながらセクシャリティーのことも考えていくということでいいと思う。

女性やセクシャルマイノリティが弱いわけではない。権利という場面において、弱くさせられている、ということ。当事者の責任ではない、差別する側の責任ということかなと思う。

 

メディアはどうなの?琉球新報の内実は?

矢野:メディアの中におけるジェンダー不平等の問題について聞きたい。この部署は男性の部署、女性の部署というものがあるのか、取材先で「なぜ女の人が来るの」とか「なぜ男の人が来るの」と言われたことがあるか。

座波:新聞には「面」がある。基地問題は政治面、子どもの貧困は(県政の課題として出てきても)社会面、生活面に載せる。読者が読みやすいようにということで面の特性を出しているが、イメージの再生産をしてしまっているところは大きいと思う。 琉球新報には、女性記者もたくさんいていい連携もできているが、管理職や役員は圧倒的に男性優位で、取締役には一人も女性はいない。約100人がいる編集局内でも女性管理職は部長4人と報道本部長1人の合計5人。 新聞自体「何々すべき」という論調が多い。生き苦しさを感じるあるべき姿を押しつけられるときのトーンと似ていると気になっている。そうではなくて、新聞で取り上げるテーマは当事者意識を持ってみんなで社会を変えていこうという時代にきている。「have to be(~べき)」ではなく「let’s(~しましょう)」の方にしたい。

:ある取材先から「男はいらんから、女性近くに座らせろ」とか言われたことがある。社内でも新聞社の人も勉強してないと言うこともあった。共同通信から送られてきた記事で全国チェーンの大型雑貨店がオールジェンダーのトイレを設置したとあった。その記事に「LGBT用トイレ」と見出しつけていて「その見出しはやめた方がいい」と言ったが変えてもらえなかった。新聞社も勉強しないといけないと思っている。

座波:企画をとりあげていく中で「なぜ女性が(政治の場に)いなければいけないかということを証明していけ」と社内の先輩に言われて、ガーンとなった。当たり前のことが当たり前に行われていないことを可視化しようとしてやっていたのに(女性の)存在証明からやらないといけないと感じて、ショックだった。今までの女性の先輩たちは(権利獲得のために)戦ってきた分、何かを証明しないといけないというプレッシャーがあるのかもと思った。女性が女性に対して何か役割を責任を押しつけているのかなと思う部分もある。

:政治部は男性が多く取材のやり方も「マッチョ(※マッチョイズム)な体質」と言われている。個人的にはいろいろ気づきや反省がある。(男性がジェンダーに関する取材をする上で)注意しないといけないことがもしあれば教えてほしい。

矢野:男性女性に限らずみんなが理屈のない固定的性別役割分担意識に陥ってないかを常にチェックする。権利を持ってる方であれば余計に気をつけないといけない。

 

ー琉球新報ではこれだけ女性力の企画を展開しているが、メディアはどうなの?と取材先に聞かれないか

座波:ある。これを機会に出していきたいと思っている。読者が知りたいことを出していくのが私たちの責任だと思っている。

:「(ジェンダー平等を)新聞社自体が達成できてから記事を書け」というコメントをもらうが、自分たちもできてない、行政もできていない、だから一緒にできたらなと考えている。

矢野:ジャーナリストは権利が保障されているということを忘れないでほしい。表現の自由、報道の自由がある。自分が表現する自由もあるけど、ほかの人が言ってる意見を聞くことも大事。正しいことを知らなければ正しい判断ができない。メディアの方にはぜひしっかり勉強してほしい。正しいかどうかを判断する知識を私たちも持たないといけないけど、発信する側にも正しい知識に基づいた情報を発信してほしい。 また、みなさんも労働者だからハラスメントを受けたときに相談できる場所をいろんな企業がもってほしい。

政治分野のジェンダーギャップ下がり続ける日本だからこそ

矢野:ジェンダーギャップ指数世界で1位がアイスランド。日本は153カ国中、121位。教育と政治が一番悪い。政治分野は144位で順位は年々下がってる。ほかの国々は改善するために努力しているが日本は変わってないので順位が下がる。ジェンダーギャップでも主に政治分野を改善しないといけない。そういう意味でも琉球新報の「女性力の現実」の企画はすごく意義があると思う。

 

ー改善するにはどうしたらいいか

矢野:段階的に強力な措置も必要だと思っている。スウェーデンでは母親休暇・父親休暇という制度がある。トータルで480日あるが90日は他方に譲れない。男性がとらなければ、トータルが90日減るということが効いた。それで男性の9割以上が育休をとっている。 ノルウェーでは取締役会における女性の割合を40%にすることを義務づけて、達成できないと上場を取り消すとした。絶対達成できないと言われていたけど達成できた。ちょっと強力な手段も必要かもしれない。候補者アンケートにジェンダーの視点を入れてと提案もある。これも大事なこと。

 

みんなが「自分事」として考える大切さ

:この企画に関わってからしかジェンダーのことを勉強できていない、ということが反省としてある。だからこそ、読者と一緒に考えて一緒に紙面をつくってもらうという意識で考えている。配信を視聴している中には男性の方もいると思う。自分たちが権利、利益受けてきた側であるということを振り返ること、自分がだれかを傷つけていたかもしれないことに気づくことは辛いことかもしれないけど、気づかずに続けていくよりもマシだとおもう。男性も一緒に考えていく機会にしていけたらと思う。

座波:差別する側の人が変わらないと問題解決しない。(ジェンダーの問題を)「女性問題」と区切ってしまうことは、沖縄の米軍基地を「沖縄問題」と言い切る構図と全く同じだと思う。差別する側が当事者として自覚して考えていかなきゃいけないと思う。日米同盟は「USーJAPANーalliance」「同盟」という言葉が強調される。LGBTの話するときに「アライ」の存在、支援者は大事だと思っている。女性や沖縄の差別の問題、きちんと「アライ」が一緒に声を上げていってくれたらと思う。

アメリカでトランプ政権の際にマイノリティーの人たちが声を上げていた。トランプ大統領の女性蔑視発言がおかしいと立ち上がった女性たちがいたおかげで、中間選挙で女性の候補者が最多当選した。バイデン大統領になり、そのときの有権者たちの声を聞いて政策を考えているかも、と思うと希望だと思った。政治に届く声を私たちがきちんと上げて形にしていくということを連載取材を通してみなさんと考えていけたらいいなと思う。

矢野:分断を呼びたいわけではない。みんなが自分事と思ってほしい。 みんな自分が差別する側になることもある。差別してると思ったら男性自身の働き方が男性自身を苦しめているときもあるので、みんなが人間らしい生活ができる働き方を目指すことが大事。みんなが自分事として人間らしく働き暮らせるように、考えていく「レッツ」をしていただけたらと思っている。

座波記者、明記者たち政治部が取材した「『女性力』の現実 政治と行政の今」はこちらから>>

 

 

まだまだ続く!琉球新報の国際女性デーオンラインイベント

第2弾!国際女性デー2021・ウェビナー「沖縄から性差別を考える~#KuTooの石川優実さんを迎えて」

【日時】2021年3月7日(日)午後2時~ ※見逃し配信あり

【出演】石川優実氏(俳優、アクティビスト)、伊是名夏子氏(コラムニスト)、玉城江梨子(琉球新報デジタル推進局)

詳細は>>「これ、おかしくない?」と言っていい そう伝えたくて始まった一つの企画

 

ウェビナー「谷口真由美さんが語る!森氏発言とスポーツ界のジェンダー平等」

【日時】3月8日(月)午後7時~

【出演】谷口真由美氏(法学者、日本ラグビーフットボール協会理事、新リーグの法人準備室室長)、知花亜美(琉球新報地方連絡部長)

詳細は>>【関連記事】谷口さん、国際女性デーに伝えたいことは何ですか?

 

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