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首里石鹸の「成功モデル」とは コストダウンの工夫とブランディング戦略 <変革沖縄経済>19


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「オンラインショップを、沖縄を伝えるメディアのような存在にしたい」と話す、コーカスの緒方教介社長=2月2日、那覇市首里末吉町の同社

written by 沖田有吾

コロナ禍で生じた電子商取引(EC)需要だが、島嶼(とうしょ)県の沖縄では、県外への商品発送の輸送コストがネックとなる。特に、BtoC(消費者向け取引)で小ロットの発注が多くなるECは、一括輸送によるスケールメリットが生まれず、送料が割高になりやすい。「首里石鹸(せっけん)」を運営するコーカス(那覇市、緒方教介社長)は、発送方法の工夫とブランディング戦略で、コストというハンディを乗り越えている。

首里石鹸は2017年4月、自社のオンラインショップでECを開始した。当初は社内で梱包(こんぽう)、発送していたが、売り上げが伸びるほどに社員の負担が大きくなった。18年9月から、神奈川県に倉庫を借りて県外からの注文に対応している。あらかじめまとめて輸送し、注文が入れば倉庫から発送することで、人件費を含めた発送費用は1個当たり約1500円から800~900円に圧縮された。当初は社員の作業負担軽減と配達日数の短縮を主な目的としていたが、コロナ禍で注文が増加したことで、コスト面でも大きな効果を生んでいる。

緒方社長は「以前のままならばセールスを伸ばしきれなかっただろう。多品種、多店舗で県内外需要のあるブランド事業では、成功モデルの一つだと思う」と話す。店舗増に伴い、店頭販売分も含めて取り扱う商品数がさらに拡大したことから県内の物流会社に一括で委託し、さらにコストを低減することも検討している。

コストダウンの工夫とともに、ブランド化による競争力も大きな武器となっている。首里石鹸は卸売りや大手ECモールへの出品をしていないため、低価格競争を避けられることが強みだ。オンラインショップの開始当初、売り上げは月10万円程度だったが、商品の認知度とともに成長した。店舗の休業を余儀なくされた20年4月以降もECの売り上げは急増し、12月には前年同月比2倍以上の1千万円を突破した。

購入金額が8千円以下の場合は送料を購入者負担としていたが、コロナ禍で沖縄に来られない人のため、20年4月に送料を一時無料にした。予想以上に好調で、無料キャンペーンをやめる決断ができないでいたが、21年1月に元に戻した。それでも売り上げは落ちず、収益は1割近く上がった。

緒方社長は「店か自社のオンラインショップでしか購入できないという強みがあると思う」と話した。

実は首里石鹸も、オンラインショップ開始直後の17年10月、大手ECモールに1カ月だけ出品していた。しかし、すぐに撤退した。「商品を通じて、沖縄での思い出などのコトを売りたかったが、実際にはポイント付与を競うだけになってしまった。来店する人をどう増やすかに、限られたリソース(資源)を費やしたいと考えた」と撤退の決断を振り返る。

店頭での体験を最大の価値と位置付け、魅力に引かれた会員に対して、日常的にブランドイメージを伝える手段としてECを活用している。LINEを使って、商品紹介だけでなく沖縄の雰囲気を伝えるためのエッセーなどを頻繁に発信し、ブランドの世界観を伝えている。

緒方社長は「首里石鹸を求めてくれるのは沖縄を好きな人たち。最終的には、オンラインショップを、私たちの切り取り方で沖縄を伝えるメディアのような存在にしていきたい」と話した。

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