written by 沖田有吾
新型コロナウイルスの感染拡大で、人との接触を回避する傾向が常態化している中、密を避けながら多くの人とコミュニケーションを取れるバーチャル空間は、今後の活用が期待される分野だ。
東京・渋谷区公認の配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」内で、昨年10月下旬に開催されたハロウィーンイベントには、6日間で約40万人が参加した。三越伊勢丹ホールディングスは、バーチャル空間内に伊勢丹新宿本店を再現し、買い物ができるサービスを始めた。コロナ禍を避けてエンターテインメントや買い物を楽しめる新しい「場」に、注目が集まっている。
あしびかんぱにー(那覇市、片桐芳彦代表)は、ゲーム制作のほか、2次元キャラクターであるご当地VTuber(バーチャル・ユーチューバー)「根間うい」による、観光地や県産品のPRなどを手掛けている。現在、構築を進めている「バーチャルOKINAWA」は、パソコンがあれば距離や時間に関係なく、ソーシャルVR(仮想現実)空間内の沖縄を訪れることができる。
プロジェクトの皮切りとして、4月には国際通り商店街振興組合連合会と協力して、「バーチャル国際通り」の公開を予定している。リアルに再現された街並みは、通りの入り口に守礼門や巨大なシーサーが配置され、魚やジンベエザメが空を泳ぐなどの遊び心が加えられている。
空間内にステージを制作し、沖縄民謡のライブやエイサー、沖縄空手などのイベント開催を考えている。街のど真ん中でのプロレス開催など、現実ではできないバーチャルならではの構想もある。年間で約100万人の利用を目指す。
仮想空間の国際通りでも、電子商取引(EC)による特産品の販売や、イベントの一部を有料配信するなどして収益を生み出し、店舗やイベント出演者に還元していくビジネスの活性化を計画している。
風間康久CHO(チーフ・ハピネス・オフィサー)は「限定された空間に、沖縄に興味のある人が来る。ユーザーに近い位置で本音を聞きやすく、商品開発のマーケティングなどにも有効だ」と話す。
バーチャルOKINAWAでは、訪れた人のアバター(分身のキャラクター)同士で会話することができ、空間内のイベントに参加して体験を共有することなど、居心地の良い街をつくる。県民も楽しめるイベントを定期的に開催し、滞在者が増えれば、空間内で県民と県外、国外の沖縄ファンの交流が生まれ、現実の誘客につながると考えている。
バーチャル空間だけで完結するのではなく、リアルへの波及が最大の狙いだ。片桐社長は、沖縄戦の後に、娯楽を提供することで人々を引きつけて復興に貢献し、国際通りの名前の由来にもなったとされる「アーニーパイル国際劇場」をイメージしている。沖縄が持つ魅力的なコンテンツを発信する場をつくることで、コロナ収束後に、実際に沖縄を訪れる人を増やしていくことが目標だ。
「私たちはあくまでも裏方。輝くのは沖縄に本来ある魅力的なコンテンツだ。バーチャルとリアルは食い合う存在ではなく、共存共栄して沖縄を発信していきたい」と目標を語った。
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