自民党の細田博之元官房長官が、19日の党沖縄振興調査会で玉城デニー知事に向けた発言が波紋を広げている。細田氏は会合終了後の本紙取材にも「一国二制度でいい。厚労省を頼りにしない、ただし補助金はいただきますということでいい」と改めて持論を述べている。野党は「政権与党として無責任な発言」と批判を強める一方、玉城知事は「激励だった」との認識にとどめた。沖縄振興調査会での細田氏の発言を振りかえり、発言の問題点について県内識者に見方を聞いた。
検査徹底 国の政策で 徳田安春氏 群星沖縄臨床研修センター長
自民党の細田博之元官房長官の発言は失礼なだけでなく、国政与党の重鎮が沖縄県知事に発する言葉として適切ではない。水際対策での検査を拡充しないままに観光を推進してきたのは国の政策だ。感染源対策としての検査を徹底すべきという点には賛同するが、細田氏は言う相手を間違っている。
県内からは検査拡充を求める声が上がっていた。玉城デニー知事も出発空港でのPCR検査を求めてきたが、認めなかったのは感染症対策を担う西村康稔経済再生担当相らだ。
感染を抑えつつ経済を回そうとするならばコロナと共存する「ウィズコロナ」ではなく「ゼロコロナ」を目指すべきだ。陸続きの地域と比べて流入経路が限られている離島は、ゼロコロナ戦略を取るには有利だ。観光を止めないのであれば来県者にPCR検査を義務付けるしかなかった。沖縄本島ならまだしも、医療体制が弱い離島で大規模なクラスター(感染者集団)が発生すれば一気に医療崩壊に向かう。
米ハワイ州のように国内航空便でも検査義務付けを導入してはどうか。細田氏が口にした通り「一国二制度」を取ればできるので、細田氏は実現させることで政権政党の責任を果たしてほしい。
隣で聞いていた玉城知事は、細田氏の「お墨付き」を得たとして、西村氏に「一国二制度を取り入れてゼロコロナを目指す」と伝え、検査義務付けを改めて申し入れるとよい。「激励」と受け止めるだけでなく、県民のために直ちに行動すべきだろう。
県への責任押し付け 島袋純氏 琉球大教授
細田博之元官房長官の発言は、昨今はびこる社会的弱者に対するヘイト(憎悪)と同じ構図だと言える。米軍基地問題を巡り、政府と県は長らく対立しているが、沖縄県民からすれば普通に生きていくための生存権を守るため、当たり前の主張をしているだけだ。自民党をはじめ保守政治家の多くに、自分たちだけでは何もできないのに、政府に反抗的な沖縄には意見する権利はない、という意識が根強くあるのが見て取れる。
新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるには、国、県、各市町村がそれぞれの持ち場で最善を尽くすことが求められる。未曽有(みぞう)の事態である今こそ、枠組みを超え連携して対策に当たるべきなのに、県域を越えて広がる感染症対策を県の責任だと押し付けるのはあまりに無責任だ。
県に独自のコロナ対策を取るよう求めるなら、それを可能にする権限移譲と財源の確保が必要だ。日米地位協定の壁に阻まれ、入国管理も十分にできない米軍関係者の移動も規制できるなら、県のコロナ対策はより効果を発揮できる。
「一国二制度」という発言もあったが、主権国家並みの医療や教育制度が確立できるなら、確かに沖縄のためになる。十分な財源があれば、米軍基地も追い出せる。だが、細田氏の今回の発言からその意図は読み取れない。次期沖縄振興計画の関連からも揺さぶりを掛けているように、政府が沖縄をコントロールしたいという姿勢は変わらない。
(政治学)
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