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【上間陽子さんスピーチ】鍵を握りしめ夜を歩く「小さな沖縄のパンドラの箱と希望」<「海をあげる」ノンフィクション大賞受賞>


この記事を書いた人 Avatar photo 大城 周子

 ヤフーニュースと本屋大賞が共催し、全国の書店員の投票で選ばれる「2021年ノンフィクション本大賞」は10日、琉球大学教授の上間陽子さんの著書「海をあげる」(筑摩書房)に決まった。

 東京都内で開かれた発表会と授賞式で上間さんは「この賞は私が受けたのではなく、沖縄に対する賞であり、沖縄でしんどい思いで生きている子たちへのはなむけのような賞だと思っています」とあいさつした。

 「海をあげる」は、上間さんが幼い娘や家族との生活、若年出産した少女らの調査と支援を続ける中で感じたことなどを記した自身初のエッセー集。沖縄の人々の日常に入り込む基地問題や、政治や権力に踏みにじられる状況もつづられている。

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 上間さんはスピーチの中で、思春期になったとき、「外出の際には手のひらに家の鍵を握るように」と母に教えられた思い出を紹介した。その理由は、自分の身に危険が迫った際にその鍵を攻撃材料にできるというものだ。「東京に出てから私は夜でも手のひらに鍵を握りしめて歩かなくていいんだということを知りました。娘を育てているので、このことは再び切実な問題になりました」と語った。

そして米軍の新基地建設が進む辺野古の海に土砂が投入された日のことを書いた「アリエルの王国」という章を挙げた。

 「『海をあげる』は何よりも『アリエルの王国』という章のために書かれた本だといえます。小さな娘のそばで沖縄を生きる痛みを、どうしたら本土の、東京の人たちに伝えることができるのか。本をまとめるとき、私はその1点だけを考えました」という上間さん。「私たちがどんなに心を砕いてもどうにもならないことが、政治や権力によって現れてしまうということを書きたいと思いました。『アリエルの王国』は目の前にいるあなたの問題だと読んでもらうためのたくさんの仕掛けがあります」と明かし、「それを私とは違う場所で、それぞれの持ち場や専門性でもって仕掛けてくれた方々がいる。尽力された方々がこの本をこういう明るい場所に連れてこようと思ったのではないでしょうか」と感謝を口にした。

 基地があるゆえの問題を抱え続ける沖縄。上間さんは約15分に及んだスピーチの最後をこう締めくくった。「地図で探すことの難しいくらいの小さな島に、日本が見たくない考えたくないものが押しやられている。『海をあげる』はパンドラの箱でもあり、私たちの国のアキレス腱について書きました。そういう本が今日、明るい場所にやってきました。残されたのはただ一つの希望です。それは私たちはまだ正義や公平、子どもたちに託したい未来というものを手放さないということだと思います」