年6万人のリゾート客、住民わずか21人…沖縄・水納島の存続危機と「境界線」への視線


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本部町から望む水納島=17日

◆『水納島再訪』著者・橋本倫史さんに聞く

 沖縄県の本部半島沖に浮かぶ小さな島、水納島。透き通った美しい海が人気で年間約6万人が訪れる観光地だ。一方、島の人口は減り続け、2020年1月現在21人が暮らしている。『水納島再訪』には、そんな島の今と歴史がつづられている。著者の橋本倫史さんは、島が歩んだ歴史や課題は「どの地域にいても『地続き』のものとして受け取ってほしい」と語る。

 橋本さんは広島県出身。演劇団体「マームとジプシー」がひめゆり学徒隊に着想を得て描いた舞台の取材などで毎年沖縄を訪れるようになった。水納島との出合いも2015年に開いた演劇のワークショップがきっかけ。しかし、島のことを本に残そうと思ったのは最近だ。「このままいけば無人島になる」。2021年春、島の民宿のオーナーの一言が橋本さんを動かした。

 本は、橋本さんが見た景色や島民から聞いた話を起点に、島の歴史がまとめられている。

 瀬底島から渡った人たちが水納島を開拓したこと、沖縄戦では水納島に米軍の砲兵陣地が築かれ、伊江島に大砲が撃たれたこと、海洋博覧会の前後にはリゾート開発を目当てに島の土地を買い占めようとした県外の業者に島民が立ちはだかったこと―。

2005年頃の水納島。ビーチには観光客がいっぱい

「住み始めた人がいて続いた時間がある。無人島になるということはそれが終わるかもしれないということ。その重みを伝えたかった」

橋本さんは水納島の歴史を記した理由をこう語る。

 離島ならではの不便さや人口減で集落の存続が危ぶまれる状況は、他地域にもあると指摘し「水納島を特別視してほしくない」と話す。「水納島と沖縄本島、沖縄と本土。海で隔てられてさまざまな『境界線』があるけど、問題は地続きだ」。今暮らしている人の生活やこれまでの歴史を書き込むことで「自分とは違うものに対する想像力を持ち続けるきっかけにしてほしい」と思いを込める。

 これまでも、那覇市の公設市場周辺を書いた琉球新報での連載「まちぐゎーひと巡り」など、時代と共に移ろう街並みを書き残している。島や街…日々変わる営みをどう捉えればいいのか。

 そう聞くと、橋本さんは「いつか変わってしまうことは大前提」とした上で「生活している人の声を拾うこと、書いて残すことで本の中で風景や時間が記録される。それが僕にできること」と答えた。(「水納島再訪」は講談社・1600円)(田吹遥子)

『水納島再訪』の著者、橋本倫史さん

 

 はしもと・ともふみ 1982年広島県生まれ。2007年に「en-taxi」(扶桑社)に寄稿し、ライターとして活動を始める。2019年1月に「ドライブイン探訪」(筑摩書房)、同年5月に「市場界隈」(本の雑誌社)を出版した。現在、琉球新報で「まちぐゎーひと巡り 那覇の市場界隈」を連載中。


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