「おじいの店守る」新市場楽しみにしていた祖父が他界…思い継ぐ孫の決意、新しい公設市場とそれぞれの思い


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大勢の客でにぎわう第一牧志公設市場=19日、那覇市松尾

 那覇市の第一牧志公設市場が元の場所に戻ってきた19日、周辺のまちぐゎー(商店街)は活気に包まれた。「相対売り」などの伝統を受け継ぎながら新しいものを取り入れ、生まれ変わってきた那覇の市場。コロナ禍を乗り越え、新たな歴史を刻み始めた。

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 「無事に3年9カ月ぶりに元の場所に戻ったことは喜びにたえません」。19日に催された、那覇市の第一牧志公設市場のオープニングセレモニー。同市場組合の粟國智光さん(48)は涙をこらえ、天を仰いだ。コロナ禍を耐えて新市場に戻った事業者もいれば、完成を見ずにこの世を去り、後継ぎに店を託した事業者もいる。それぞれの思いを胸に「ちむぐくるのこもったあちねー(商売)」は続く。

 午前11時ごろに市場のドアが開放されると、大勢の人が流れ込んだ。人気のサーターアンダギー店「歩(あゆみ)」では30分で完売した。娘と共に経営する尾崎順子さん(75)はコロナ下の日々を「涙しかない」と振り返る。「これからは笑ってお客さんを迎えないとね」と笑顔を浮かべた。

 外小間(市場の外壁部分の店)の「上原果物店」は、店主の上原信吉さんが毎朝、誰よりも早く店を開けることで知られていた。だが信吉さんは仮設市場への移転後に他界し、今は孫の隼人さん(37)が切り盛りする。隼人さんは「おじいが一番、新市場を楽しみにしていた。この日を一緒に迎えられなかったのは寂しい」と話すが、「おじいとおばあの店を守る」と前を向く。元気な祖母ヒロコさん(93)は新市場に「上等」と一言。今後も毎日、店に出るつもりだ。

 旧市場と市場向かいに2店舗を構えていた「小禄青果店」の小禄悦子さん(80)は、市場が新しくなったら再び入るつもりだったが、夫の幸雄さんが2年前に亡くなったことを機に入らないと決めた。19日は市場の知人たちをお祝いしたが、「お父ちゃんにも完成まで元気でいてほしかった」と話す。市場向かいの店舗は続けている。新市場開業で周辺の通りも活気づき、「市場はなくてはならない存在」と強調した。

 観光で県外から訪れた38歳の女性は「本土とあまり変わらなくなってきた大通りと比べ、市場は面白い。日常感もありつつワクワクする雰囲気が持続できれば、地元のお客さんも戻ってくるのでは」と期待を寄せた。
(伊佐尚記)

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