沖縄県が11日、糸満市米須の鉱山開発のための農地転用許可通知書を開発業者に出したことを受け、県に許可しないよう求めてきた市民団体などからは強い失望の声が上がった。書類が整っていれば不許可にできない県の事情や、生活の糧とする業者に理解を示す声も一部ある。ただ、沖縄戦の激戦地となった本島南部の土砂を辺野古の埋め立てに使う国の計画に対し、鎮魂の思いで戦没者を弔ってきた市民や遺族らの間に反対の声は根強く、焦燥感が強まっている。
国や県に、激戦地の土砂を使わないよう要請を続けてきた沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」の具志堅隆松代表は「遺族のことを考え、許可しないという判断はできなかったのか」と語る。全国の地方議会に求めてきた陳情採択は230議会に上ると言い、具志堅さんは「まだ諦めない」と前を向く。
公有水面埋立法の承認は公益性の原則に適合していなければならないとされる。「遺族に遺骨が返ってくる機会が失われる恐れがある。戦没者の冒涜(ぼうとく)にもあたる。公益性に反する」と指摘する。
「遺骨土砂の使用という人道的な一点だけで設計変更を再度不承認にして司法に迫ってほしい」と玉城デニー知事に求める考えを明らかにした。
島ぐるみ会議いとまん幹事の大城規子さん(73)は「厳しいという話は聞いていたが、他に打つ手はないのか」とため息をついた。
採掘予定地の近くには戦後初めて建立された慰霊の塔「魂魄の塔」がある。野ざらしになっていたたくさんの遺骨を住民が拾い集め、慰霊塔を建てて弔った。
「設計変更申請には糸満市や八重瀬町から土砂を調達するとされているのに、防衛省が『何も決まっていない』と言うのはでたらめだと思う。魂魄の塔の目の前で本当はやめてほしい」
遺骨収集に携わった沖縄戦体験者の女性(93)は「土砂を採取してほしくない。震えながら推移を見守っている」と思いを語る。
沖縄平和市民連絡会の北上田毅さんは「魂魄の塔など県民にとって大事な場所のすぐ横をダンプが行き来することになる。残念としか言いようがない。県は一連の手続きで戦没者の尊厳を踏みにじっている」と批判した。
(中村万里子、慶田城七瀬)
中止訴え署名、ハンスト
本島南部からの土砂採取に対する批判は、国の辺野古埋め立ての設計変更申請を受けて始まった。南部が沖縄戦激戦地のため、沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」の具志堅隆松代表らは遺骨混じりの土砂が辺野古埋め立てに使用されることを懸念していた。熊野鉱山周辺の斜面地で沖縄戦当時のものとみられる遺骨を見つけたことから、県に開発を許可しないようハンガーストライキや署名活動などで強く要請してきた。
県議会は2021年4月、国に対し「沖縄戦戦没者の遺骨等を含む土砂を埋め立てに使用しないよう求める意見書」を全会一致で可決した。
県は同年5月、鉱山開発について手続きを進めていた沖縄土石工業に対し、採掘開始前に戦没者の遺骨の有無を確認することなどを求める措置命令を出した。同社は措置命令を違法として、国の公害等調整委員会(公調委)に裁定を申請した。
22年6月、公調委は、遺骨が見つかった場合は同社が採掘作業を中断するなどの条件付きで採掘を認めるとする合意案を示し、県と同社が合意した。
鉱山開発に向けた手続きは23年3月から、琉球石灰岩を搬出するための道路建設予定地の農地一時転用申請について県の審査が続いていた。
(慶田城七瀬)