日常会話がしまくとぅばの女子高校生と、東京から転入した男子高校生とのラブコメディーを描いた人気漫画『沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる』(沖ツラ)のテレビアニメ化が、決まった。新潮社の漫画サイト「くらげパンチ」での連載開始から3年、10月1日時点で7巻まで発売されているが、それでも絶えない“沖縄あるあるネタ”の源泉は何か。物語の舞台となったうるま市具志川(ぐしかわ)に、作者の空えぐみさんを訪ねた。
■待ち合わせは公民館
取材の待ち合わせは具志川公民館。空さんが来ると、公民館の職員や地元の人たちが空さんに次々と声をかける。「地域の人は本当に温かい」と空さん。大阪府出身の空さんは、祖父が沖縄出身だが、特段具志川にルーツがあるわけではない。
2018年、沖縄を舞台にした漫画を描こうと、2カ月だけ住んだのがうるま市だった。短期滞在のアパ―トにたまたま空き部屋があった。同じく空き部屋があった別の街と悩んだが、地域の人との交流をテーマに考えていたため、地域とのつながりが濃い具志川を選んだという。
来てまもなく具志川公民館の高江洲朝美館長と知り合い、人や言葉、行事などを教えてもらった。沖縄から離れる頃には地域の人たちから「またおいで」と言われるほど仲良くなっていた。「思った以上に楽しかった。沖縄の文化や風習、歴史をもっと学ぼうと思って移住を決めました」
沖縄の人は海に入らない、比嘉さんがたくさんいる―。漫画に登場する「沖縄あるある」は、地域の人たちとの交流で知ったものばかり。「館長の家の旧盆に呼んでもらってウチカビを燃やしたり…。外から来たので本土と沖縄の違うところに気付きやすい。驚いたことをそのまま漫画にしています」。中でも、沖縄のヤモリが鳴くことを取り上げた回では、沖縄と本土両方から互いの地域のヤモリの違いに驚いたと反響があったという。
物語で主人公の中村照秋(てーるー)が好きになる喜屋武飛夏(ひーなー)は日常会話がしまくとぅば。たまに達観したコメントで物語を締めるが、空さんは「喜屋武さんは沖縄のおばあを若くした、沖縄を体現したキャラクタ―」と話す。
言葉も、毎朝通う地域のラジオ体操で出会ったおじいおばあに教えてもらっている。「沖縄のことを聞くとうれしそうに教えてくれるんです」と振り返る。
高江洲館長は「空さんは普通に地域活動に参加してもらっている。ここにずっと住んでもらって区民として付き合いができれば」と期待を込めた。
■聖地は具志川
「具志川の景色がたくさん漫画に載ってるよ」。高江洲館長が持ってきた漫画本には、具志川の背景が登場する場面に貼った付箋がびっしり。
館長のお気に入りは具志川ビーチから見た具志川の街並みだ。
主人公のてーるーがよく座る海辺のベンチは、背景も含めてそっくり。
てーるーたちがよく通る石垣も道も集落内にある。
公民館もよく登場する。地域の人たちが漫画に出ていることもあるとか。
■アニメ化のキーパーソン?
放送時期は未定だが、テレビアニメ化は7月に決定した。空さんは「アニメ化は一つの目標だった。夢がかなったことがうれしい。楽しみで仕方ない」と喜ぶ。高江洲館長は「具志川が〝聖地〟になるかも」とグッズ展開まで考えている。
これだけリアルな沖縄あるあるを書き込んだ作品だと、アニメ化でポイントとなるのは、沖縄風のイントネーションや、しまくとぅばを声優がどれだけ再現できるかだろう。そこで重要な役割を担うのが、漫画で方言監修を務めるうるま市出身の譜久村帆高さんだ。
空さんは「この言葉をしまくとぅばにしたら何かとか、『ほら』と訳せる言葉に『だー』と『うり』があるが、ニュアンスが違うが実際どう使われているか、など譜久村さんに聞いています」と話す。
アニメでは、声優が読み上げるセリフを譜久村さんがうちなーぐちのイントネーションで話して録音して送り、読み上げ方の参考にしてもらうという。「漫画やアニメが好きなので関われることがうれしい」と譜久村さん。「私に分からない言葉は両親に聞く。高校生の会話は実際の高校生が使っているかも確認する」。リアリティーを担保する重要な役割だ。
アニメ化に向けた作業が始まっている。空さんには次なる目標がある。「沖縄の文化をもっと知らせたいですね。『あぎじゃびよー』を県外でもはやらせたい」ともくろむ。そして地域への感謝の気持ちも強い。「具志川の人たちには本当にお世話になっている。アニメで具志川を盛り上げて、お礼をしたい」と話した。 (田吹遥子)