自立へ歩み共に 飲食店「琉球かさ屋」、ひとり親やナイトワーカーを支援 「クッションのような場所に」 <雨のち晴れ>第1部「あき社長の奮闘」(1)


自立へ歩み共に 飲食店「琉球かさ屋」、ひとり親やナイトワーカーを支援 「クッションのような場所に」 <雨のち晴れ>第1部「あき社長の奮闘」(1) カウンター越しに朝食会の出席者と談笑する玉城あきさん=那覇市松山(小川昌宏撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 吉田 早希

 県内最大の歓楽街、那覇市松山の一角にその飲食店はある。看板やのぼりは出ていない。階段を上り建物3階に見えてくる店の入り口は、民家の玄関のようだ。中に入ると印象は一変。白い壁に朱色の障子枠、紅型模様の鮮やかな装飾で明るい雰囲気が広がっている。飲食店「琉球かさ屋」だ。

 「いらっしゃいませ」。店内の階段をさらに上ると、カウンター越しに女性の明るい声が聞こえてくる。笑顔で接客するのは、代表の玉城あきさん(39)=宜野湾市。シングルマザーとして子どもを育てながら28歳からキャバクラで働き始めた。

 開店は午後8時。会員制のバーで、沖縄の家庭料理をはじめとした食事が楽しめる。ここで働く女性スタッフの中には、玉城さんと同じシングルマザーや過去にキャバクラなどで働いていた人、精神疾患があり生活保護を受ける人もいる。昼の仕事への就職などを目指す彼女たちが接客や調理を担当する。コンセプトに賛同した人たちが店を利用できる、一風変わった営業スタイルだ。

カウンターの上には店の方針に賛同してくれた企業や個人の名前も並んでいる=2023年9月21日、那覇市松山(小川昌宏撮影)

 玉城さんがこれまで培った人脈を生かし、徐々に口コミで客層を広げている。店のカウンター上には、県内外の企業や個人の名前が書かれた札がお品書きのように並ぶ。コンセプトに賛同し、会員登録した“応援団”だ。2023年2月の開店以降、札は増え続け、現在は約200枚が連なる。

 「店の形態に賛否はあるかもしれないが、彼女たちが自立して社会に出るための準備ができる、クッションのような場所にしたい」と語る。スタッフにまず呼びかけるのは毎朝起きて、時間通りに出勤し、自分が計画したシフトをしっかりこなすこと。世間では「できて当たり前」と一蹴されるのかもしれない。だが、玉城さんの覚悟は固い。

 「小さい頃から学校に十分に行けなかった子も多い。世の中にはお金の支援もあるが、今の彼女たちに必要なのは自立して生活する力を身につけるためのサポートなんです」。言葉に一層力がこもった。 

(吉田早希)