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【動画あり】CMづくり「最初はいっぱい失敗・・・」そのワケは? いしみね店長、一発目で出した結果 沖縄<ビッグワン「おもしろさ」の秘密>(2)CM初期の難局


【動画あり】CMづくり「最初はいっぱい失敗・・・」そのワケは? いしみね店長、一発目で出した結果 沖縄<ビッグワン「おもしろさ」の秘密>(2)CM初期の難局 笑顔で取材に答える「いしみね店長」=2月、沖縄市海邦町のビッグワン本社
この記事を書いた人 Avatar photo 古堅一樹

 撮影の直前。スタッフと冗談も言い合うなど、談笑しながらネクタイを締め、衣装を身につけていく。最後に赤いエプロンを着ると準備万端だ。カメラに向かい、人さし指を立てて「すごいでしょ~!」と強調し、商品の魅力を紹介する「いしみね店長」。ディスカウントショップ「ビッグワン」(本社・沖縄市、久保田安彦社長)のCMに出演し始めてから約7年。すでに約600本に上るCMに登場し、今や売り上げ促進に欠かせない。しかし、同社のCMは、決してスタート当初から順調だったわけではなく、実は初期の頃、失敗の連続だったという。今回は、ビッグワンがCM展開を本格化させた当初の試行錯誤やいしみね店長がCMデビューした理由、最初の撮影のエピソードなどに迫る。(古堅一樹、熊谷樹)

大量の在庫に頭抱え

 「最初はいっぱい失敗した・・・」。こう明かすのはCMづくりを手がけるビッグワンの大城智史常務だ。テレビCMに本格的に力を入れ始めたのは2014年頃。取引先として、海外の企業にも視野を広げ、中国の工場などから独自に商品を仕入れるようになってからのことだ。

 県外の商社を介さず、コストを抑えて中国の工場から靴下やタオル、雨靴など、多様な商品を直接、仕入れた。しかし、当初は売れ行きがかなり悪く、在庫があふれ社員らは頭を抱えた。「(中国から)仕入れても何も売れない」「どうしようか」。新品のまま積み上がっていくたくさんの箱を目の当たりにして、途方に暮れた。

 事態は深刻だったが、嘆いてばかりいるわけにはいかない。社内で分析を重ね、売れない理由は、決して商品の質が低いのではなく「商品の良さが伝わっていないからだ」と捉え、打開策を検討した。

 店内ではカラフルな文字やイラストで商品の特徴をアピールする「POP」を目立つように商品棚などに設置していた。だが、それだけでは魅力が伝わっていないと考えた大城常務。そこで思いついたのが、映像の力に訴えることだった。「どうにか動画で商品の良さを伝えられないかと考えた。実演販売士の売り方など、いろんな例を研究しながら、テレビCMに力を入れ始めた」

「面白さ」より大事なのは・・・

 しかし、すぐに難しさを痛感する。当初は、沖縄のお笑い芸人らを出演者に起用し、CMが話題になることを狙った。しかし、効果は思うように出なかったという。

 なぜ効果が出なかったのか。大城常務は、お笑い芸人だけに「面白さを追求し、商品の特徴が伝わっていなかった」と率直に振り返る。「売り上げにはつながらず、経費だけが圧迫していた」という状況に陥ってしまっていた。

テレビとリモコン(イメージ写真)

 CM制作費もかさむ中で成果が出ず、厳しい状況に追い込まれた。このままではまずいことは、明らかだった。そんな危機的な状況の中にあっても「もう意地でもこれは完成させよう」とあきらめない姿勢を貫いた大城常務。「広告代理店の担当者を1週間のうちに何度も呼んだ」と言い、とことんアイデアを出し合った。

 

大胆な改革へ

 この難局を打開するため、大城常務は、CM展開について、大胆な変更に乗り出した。まず、「商品のことを一番理解しているのは社員自身だ」と自社の社員をCMに起用し、せりふも商品の魅力を分かりやすく伝えることに軸足を移した。

「最初はいっぱい失敗した」などとCMの制作当初を振り返る大城智史常務
=那覇市銘苅のビッグワン那覇店(喜瀨守昭撮影)

 そうした流れの中で、いしみね店長がテレビに出演するようになったのは、2017年。広報担当としてテレビやラジオなどに出演していた社員が同じ時間帯に別の出演の約束をしてしまった「ダブルブッキング」がきっかけだった。

本当に店長?

 当時は泡瀬店の店長。バンド経験があり、人前に出るのが好きだという性格を見込まれ“代打”をオファーされた。断り切れず琉球朝日放送(QAB)の生放送番組「十時茶まで待てない!」へ出演した。

 番組ではマットレスに寝て登場するというくだけたキャラクターを発揮し、MCの「泉&やよい」と軽快にトークを繰り広げた。本人は「緊張して固くなった」と話すが、社内でも好評で「いしみね店長主演」でCMを制作することになった。

撮影スタッフと打ち合わせをするいしみね店長(右)=沖縄市のビッグワン本社(喜瀨守昭撮影)

 いしみね店長が最初に出演した本格的なCMで紹介したのは、バケツに水を入れて回すだけで簡単に洗浄や脱水ができる掃除道具「くるくるモップ」だ。

売り上げ150個→1000個に

「キャラが良く、通販のおじさんみたいで、せりふも(視聴者に伝わりやすく)通る。一発目で見事に大当たりした」と笑顔で話す大城常務。CM放送前までは、1カ月当たり約150個だった「くるくるモップ」が6倍超の約1000個も売れるまでになった。

 現在62歳のいしみね店長。今はすでに店長ではなく、同社のメディア推進室に所属し、社内タレントとしてCM出演をメインに働く。本社へ仕入れた商品の荷降ろしの作業にも定期的に加わるなど、CM以外の業務もこなす。

コンテナに積まれた商品を倉庫へと搬入作業するいしみね店長
=沖縄市のビッグワン本社(喜瀨守昭撮影)

 撮影本数のストックも増えた今は、これまでの映像素材を再利用して清明祭用や旧盆用で使い分けてCMを作成することも可能に。沖縄特有の年中行事など消費者の需要に合わせて素早く商品を発信できるようになった。県外から進出してくる大手の競合店も増える中、地域に根づいた商品づくりとCMを連動させていく考えだ。

イメージ写真

 CMで紹介する商品は、実際に使ってみてどんな言葉やしぐさで伝えるか考えているといういしみね店長。「撮影前に触ってみるのは大事。年配の人へも分かりやすく伝えたい」と話し、実感を基に視聴者へ伝わりやすい言葉を今後も模索していく。

 次回は、ビッグワンが社を挙げて力を入れる「売り場づくり」の裏側を取材する。商品を売り場でどう見せるかによって、売れ行きも大きく左右するという。開店の2時間前、早朝から始まる売り場づくりの舞台裏に迫る。