沖縄一の闘牛を決める春の全島闘牛大会が12日、うるま市の石川多目的ドームで開催された。ドームには各地の猛牛が続々と集結。そんな中、ひときわ大きな体を揺さぶり会場入りしたのは体重1300キロ、沖縄一の巨漢牛「貴花大獣王(たかはなだいじゅうおう)」。他の牛より、ゆうに200キロは上回る規格外の大きさだ。全島一の座をかけて人気、実力ナンバーワンの横綱牛に挑戦した。大獣王の牛主・伊波盛明さん(66)は「この牛にとって全島一は最後の挑戦になるだろう。一緒に漢(おとこ)になろうな」と語り掛け、大一番に臨んだ。
大獣王は南部牛で知られる岩手県産で、1歳ごろ沖縄に渡った。前の牛主によれば、幼くして骨格はたくましく、見る見るうちに成長、重厚な巨体に仕上がったという。2019年12月の具志川大闘牛大会でデビュー。超大型牛として、勝ち星を重ね、21年の秋の全島闘牛大会では、後に全島5連覇した「闘勢琥珀(とうせいこはく)」に挑戦するも、惜敗した。21年12月、現牛主の伊波さんの牛舎に迎え入れられた。これまでに11勝を上げている。年齢は「10~11歳だろう」と意外にもアバウトだ。
貴花大獣王は、とにかくよく食べ、よく眠る。一日に軽トラの荷台いっぱいの草を食べ、ラジオから流れる民謡を子守歌代わりに、うたた寝する。夜間も食欲旺盛で、午前中いっぱい起きない日もあり夜型だという。ささいなことでは動じず、気は優しくて力持ちの牛だ。伊波さんは「こんなに大きな牛に出会えたことを幸せに感じる。勝ちたいし、勝たせてやりたい」と愛牛のため、連日、牛舎で汗を流す。
全島闘牛結びの一番、優勝旗争奪戦。相手はここまで11戦全勝負けなしの王者「新力Baby」。約300キロ上回る重量を除き、下馬評では全て王者優勢だ。3千人の闘牛ファンが囲む土俵で雌雄を決した。
結果は、開始早々の猛攻で押し込まれ、腹を取られた大獣王が開始17秒で敗れた。試合を終えファンから「お疲れさま」とたくさんのねぎらいを受けた大獣王。牛舎に戻り、悔しさを飲み込むかのように、ご褒美の草をたくさん頬頰張った。沖縄一大きな牛の挑戦は、まだまだ続く。
(高辻浩之)