Vol.4 外来種、人間の生活とどう関係する? 新しい学びと入試改革に対応するMANALAB★


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アッコ研究員が聞く 「なぜ外来種は問題になるの?」
~鹿谷麻夕先生(しかたに自然案内)が答えます~

 南米原産の毒を持つ「ヒアリ」が日本で見つかったことがニュースとなっています。でも、もともとその地域にいない生き物が入ってくることで、なぜ、そんなに問題になるのでしょう。海の生き物や沖縄の自然について、沖縄県内を拠点に自然案内や環境教育を行っている「しかたに自然案内」の鹿谷麻夕先生に聞きました。(聞き手・東江亜季子)

 

   鹿谷麻夕さん

生き物の命に罪はない 悪い生き物なんていない

アッコ研究員:外来種って、なぜ駆除しなければならないほど悪い物とされるのですか?

鹿谷先生:大前提として、生き物には何の罪もないし、外来種と呼ばれるからといって悪い生き物ではありません。ただ、持ち込まれる側の生き物(=在来種)の視点で考えると、寝床を取られたり、食事を奪われたりして、さらにすみかを広げられてしまう。怖いですよね。しかし、外来種も在来種でもどっちも大事な命、生き物です。

 

アッコ研究員:なるほど。大事な生き物としながら、それでも外来種の駆除をしなければいけないんですね。

鹿谷先生:外来種が、ある地域の在来種のすみか、エサを奪っていって、生物の多様性が失われていくと何が起こるかというと、生態系のバランスが保ちにくくなるんです。地球温暖化など急激な自然環境の変化が起こった時に、生物が全滅しやすくなる。そして、薬などの原料は植物界や動物界から発見することが多い。動植物の多様性が低くなると、人間の役に立つもの、役立つ可能性があるものも減っていきます。

そしてもう1つ、豊かさって何だろう?たとえば、私たちの食事は「ステーキしかありません」となった時。1日3食、毎日、どこに行ってもステーキというのは「暮らしが豊か」と言えるのでしょうか。いろいろなものがある、いろいろな生き物が生きているって大切なことです。

人間が生き物に責任をもたなければいけない理由 それは人間の活動にある

アッコ研究員:生き物は全体のバランスを考えたりしないと思うけれど、人間が生物のバランスをどのように調整するか考えて行動もしないといけないのは、人間が思考する生き物だからですか?

鹿谷先生:動物や植物には申し訳ないけど、人間が考えなきゃいけないのは、人為的に動植物を移動させるからです。人間が、もともとの生息地だった場所から動植物を移動させる可能性がある貿易などの活動を行っている。その結果、問題が起きたのなら、人間がその責任を引き受けて、各地域の生物の多様性を保つために、ある生き物を駆逐する、命を絶つということをしているのだと私は考えています。

 そして、結局のところ自然界のこと、地球がこれからどう変化していくかはわかっていない。いろいろな研究者が努力していますが、確定的なことはなにもわかっていないんです。だから、自然のことをわからないまま壊すのはやめようよということも言えると思います。

 

外来種を放っておくと食物連鎖のピラミッドに変化がうまれる

アッコ研究員:なぜ生物多様性が大事か、外来種の駆除をしなければいけないのかはわかってきました。外来種を放っておいたらどうなるんでしょう。

鹿谷先生:たとえば、外来の生き物がくると、日本に生息している同じような生き物はすみかやエサを奪われ、困ります。そして在来の生き物が減っていくと、その生き物に関わって暮らしていた他の生き物にも影響が出る。たとえば、その在来の生き物を食べていた上位の動物たちの食べるものが変わります。繁殖した外来種に毒があった場合、上位の動物たちは、毒にやられてしまう。毒のない他の生き物をエサとして探さなければいけません。それと、目に見えないのですが、外来種が病原菌をもっていた場合、もともとその地域になかった病気を運んでくることがあります。

アッコ研究員:どんどん影響が広がり、生態系のバランスが崩れていくんですね。

鹿谷先生:生き物がすみかを移動する方法には、たとえばトカゲが流木にのって、偶然他の島に行き着くなど自然に移動する「自然分散」もあります。しかし、多くは人間の活動(貿易や人間の移動)に伴うものです。それは自然分散よりも、移動のスピードが速く、規模も大きく、移動する確率も高い。また移動の距離も長くなります。

アッコ研究員:そうですね。貿易や旅行など人間の活動に境目はもうないですからね。

やんばるは貴重な生物のホットスポット 飼い犬を捨てないで
鹿谷先生:身近な沖縄の生物の多様さはすごいんですよ。特に外来種を入れてほしくないのが、沖縄です。たとえば「やんばる」と呼ばれる沖縄の北部地域は貴重な生物のホットスポットです。ヤンバルクイナなど貴重な動植物が多いのですが、外来種が入ってくると個体数が減っていく危険性もある。だから、マングースも北部では駆除対象になっています。駆除は動物を捕まえて、殺してしまうこと。それは仕方がないとはいえ、本当に心が痛いことです。

 最近は、やんばるに捨てられた飼い犬が野犬化して、群れをつくっています。研究によれば、個体識別されているのが64頭。群れをつくってリュウキュウイノシシを狩っているのも報告されています。この野犬も、対策が必要になってきているのです。
 動植物を殺すのはかわいそう。でも、生物の多様性を守るためにはどうするか。

 結局は、人間が何に価値を置くかという人間の側の問題になります。「動物の命は最高!」とするのか、「生物の多様性が大事!」とするのか。そして、どの生き物の立場に立って考えるのか。

 

アッコ研究員:人間って好きなように場所を行き来して、動植物を運んでしまっている。この地球の生態系に大きな影響を与えることをしているんだとわかりました。私はずっと、人間に置き換えると人の移動や、人種が混ざり合うことは悪いことじゃないのに、どうして生き物はそのバランスを取る必要があるのだろう?と疑問だったんです。人の移動によっていろんな文化が混ざり合う、人種が混ざり合うことは自然と起きるし、それを過度に規制すると「差別」などにもつながりかねない・・・。しかし、生き物は規制しないといけないの?と。

鹿谷先生:昔コロンブスがアメリカ大陸を発見した時にネイティブ・アメリカンの土地を奪い、資源を奪い、病気も持ち込んでしまった事例もありました。一方で、相互理解のもとに人間が自らすすんで文化的に混ざり合っていくのはとてもいいことだと思います。これは、人間以外の生き物の問題とは話が違う。人間は人種や民族が違っても生物学的に言うと、「ホモ・サピエンス」という1種。その1種のなかでどんどん混ざり合って、種内の遺伝的な多様性を高めていっている状態です。
 人が、お互いの文化を尊重しつつ、良いところを学んで人が文化的に混ざり合っていくことは私はとても良いことだと思いますよ。

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キーワード

 

ハブ

 危険な毒ハブ。奄美大島、徳之島、沖縄島および周辺の離島に分布しる。平地から山地の耕地、森林、集落周辺の地上や木の上に住み、夜行性で昼間は風通りのよい薄暗い場所に潜む。

生態系

 ある地域に生息するすべての生物の集団と、その生物を取り巻く環境をまとめた全体。

生物資源

 食糧、衣料、薬品など人間の生活上に必要な資源として利用される生物のこと。

国連教育科学文化機関(ユネスコ)

 教育、科学、文化を通じて国際協力を促進し、世界の平和と安全に貢献することを目的とする、国際連合の専門機関。1946年発足、日本は1951年加盟。

亜熱帯照葉樹林

 一年を通して落葉することなく、葉の表面の照りが強い樹木が多い、常緑の広葉樹林のことを照葉樹林という。沖縄本島のやんばる地域の森林は北緯27度線上の亜熱帯地域。このような森林が成立する湿潤な条件を持つところは亜熱帯地域の3分の1に過ぎず、やんばる地域の森林は世界的にも希少。

希少種

 数が少なく、簡単に見ることができないような種。

水際対策

 感染症や有害生物の上陸を防ぐために空港や港で行われる検疫や検査などの対策。

国際自然保護連合

 世界160カ国から約1万人の科学者・専門家が、6つの専門家委員会に所属し、生物多様性保全のための協力関係を築いている国際的なネットワーク。200を超える政府・機関、900を超える非政府機関が会員となっている。世界自然保護会議で会員によってまとめられる4カ年計画を指針に活動が展開されている。

日本自然保護協会

 日本国内で、自然環境、絶滅危惧種とその生息地域を守り、自然の恵みを生かした地域づくりを進め、自然とふれあいの機会や守り手を増やす活動に取り組む非政府組織(NGO)。

 

世界自然保護基金(WWF)

約100カ国で活動している世界最大規模の環境保全団体。地球の自然環境の悪化を食い止めるため、生物多様性の保護、絶滅危惧種の保全などに取り組む。

島嶼(とうしょ)

いくつかの島々のこと。

 

那覇空港滑走路増設

 2020年の運用開始を目標に、2本目の滑走路の建設を進めている事業。那覇空港は滑走路が1本しかない全国の空港のなかでも2番目に発着数が多い。2016年度には那覇空港を利用する乗降客数が初めて2000万人を突破した。米軍嘉手納基地の進入経路と重なることや自衛隊機も那覇空港を利用すること、ターミナルの位置などの課題があるが、滑走路を増やすことによりスムーズな離着陸、発着の過密化の解消が期待されている。

県土砂条例

  埋め立て用の土砂や石材が県外から搬入されることに伴い、これら資材に特定外来生物が付着、混入して県内に侵入するのを防ぐことを目的として2016年に成立した沖縄県の条例。辺野古新基地建設事業や那覇空港第2滑走路増設事業などが対象となる。

 

ハブ(拠点)

 車輪の中心部のような交通網・情報網などのネットワークの結節点のことをいう。世界ではハブ空港が各地にある。世界的な物流や人的交流の輸送、移動の中継地点となる。

 アメリカではシカゴのオヘア空港やアトランタのハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港、アジアではアラブ首長国連邦のドバイ国際空港、タイのバンコクのスワンナプーム国際空港、韓国の仁川国際空港、ヨーロッパはドイツのフランクフルト国際空港、フランスのパリにあるシャルル・ド・ゴール国際空港など。

物流

 生産者から消費者に至るまでの商品の流れ。現代は国境を越えた商品の輸出入が盛んになり、物流も世界規模となっている。

 

通関

 開港場や国境などで輸出入される物に対して税金を徴収したり、輸出入が許可されている物かどうかを確認したりする税関手続きを終えて、貨物の輸出や輸入を許可すること。

検疫

 伝染病や感染症を予防するために、人の体、動植物、輸送機関などに病原体がついていないか検査し、必要であれば消毒、隔離、廃棄などの強制措置をとること。税関や出入国管理と合わせて、出入国管理と総称されている。

コスト高

 資金や費用が高くかかること。

 

シーアンドエアー

 コストは安いが時間がかかる船での海上輸送と、コストは高くなるが速く運べる航空機を使った輸送を組み合わせた輸送の方法。

保税倉庫

 国境を越えて物を取引する時にかかる税金の徴収をいったん保留して、物品を保管しておく倉庫のこと。「フリー・ゾーン」と呼ばれる自由貿易地域に創設されている。那覇空港近くに保税倉庫を有したフリー・ゾーンが1988年に供用開始された。

 

ストックポイント

 輸送されてきた物品を配送するために一時保管しておくことを目的とした基地。配送センターと倉庫の機能を併せ持つ。

もっと深く、広く知る

 「外来種、人間の生活とどう関係する?」に関する状況や課題をもっと広い視野で捉えてみましょう。過去のニュースもあるので、現在の状況を調べたり、日頃の生活で社会をよーく観察したりしてください。新たな課題、解決策が見えてくるかもしれません。

 

日中韓が感染症対策で連携 
釜山、保健相会合で共同声明

 

コラム「南風」 外来種を考える

 

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