海草藻場の観察会で、一番たくさん目にするのがナマコたちです。その理由は、海草藻場が穏やかな海であること、そして、ナマコのご飯がほぼ無限に存在するから。ナマコは、長々と横たわる体の片方に口が開き、反対側にお尻の穴が開いた、筒状の生き物です。口のまわりにぐるりと並ぶのがナマコの触手。触手の先は枝分かれして、ふさふさとした形。これで周りの砂をつかんでは、口に運びます。
でも、砂粒が栄養になるわけではありません。砂の中には、枯れた海草のかけらや、動物が出した糞や粘液など、さまざまな有機物が混ざっていて、実は栄養がいっぱい。ナマコはこれをご飯にしているんです。有機物は砂の汚れとも言えますが、ナマコはこれらを砂ごと食べて、有機物を消化し、いらない砂を糞として出します。だからナマコの糞は、きれいになった砂というわけ。
そんな、生きた砂浄化装置のナマコたち。骨格のない動物ですが、実は細かい骨のかけら「骨片」を、体の中に持っています。これを顕微鏡で見ると、種類によって実にさまざまな形をしていて面白い。例えば、海草藻場に長々と横たわるオオイカリナマコは、骨片が船のイカリ型をしています。イカリを持つ大きなナマコ、という意味の名前なんですね。このイカリのとがったところがチクチクと周囲の海草に引っかかるので、足がなくても体を伸び縮みさせながら、少しずつ移動することができるんです。
砂地にのんびりごろりと横たわり、周りは全部ごはん。毎日食べ放題なのは、海の大事なお掃除屋さんのお仕事でもあるのです。
Vol. 4 オオイカリナマコ
Synapta maculata
● 目:無足目 Apodida
● 科:イカリナマコ科 Synaptidae
● 属:オオイカリナマコ属 Synapta
動画撮影:
オオイカリナマコ 2011年6月19日 場所:浦添・カーミージー
ニセクロナマコ 2018年4月18日 場所:浦添・カーミージー
トゲクリイロナマコ 2015年4月20日 場所:浦添・カーミージー
動画撮影・編集&執筆
鹿谷法一(しかたに・のりかず しかたに自然案内)
琉球大卒、東大大学院修了、博士(農学)。広島に生まれ、海に憧れて1981年に沖縄へ。専門はカニなどの甲殻類。生き物の形とはたらきの関係に興味がある。最近は、沖縄の貝殻を削って磨くシェルクラフトを行っている。
鹿谷麻夕(しかたに・まゆ しかたに自然案内)
東洋大、琉球大卒。東大大学院中退。東京に生まれ、20代半ばでサンゴ礁に興味を持ち、1993年に沖縄へ。2003年より、しかたに自然案内として県内で海の環境教育を始める。しかたに自然案内代表。手作りぬいぐるみで海を伝える、あーまんシアターも主宰。
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