沖縄のデザイン感覚を作品に
「オキナワン・ブルータリズム」を掲げ活動するデザイナー・斎藤秀二さん。土人形とコラージュ作品を手がけている。ブルータリズムとは、直感的な素材遣いを特徴とする建築分野の一様式。斎藤さんが沖縄で暮らす中で感銘を受けた、地域の人々の創造力に通ずるものがあるそうだ。イメージの源泉や制作の様子について話を聞いた。
1995年、東京から宮古島に移り住んだ斎藤秀二さん。移住当初は農業に挑戦したほか、イラストとデザインの仕事をしていた経験を生かし、お土産品の開発をしていた。現在の活動につながる転期は、多良間島の「八月踊り」(国指定重要無形文化財)が宮古島で特別公演された時だった。
弥勒の多様性
「赤、青、黄色の衣装、チョウチョが舞っているようなかぶり物。祭りの色や形に圧倒されました」
そう振り返る斎藤さん。そこから県内の祭りに興味を持ち、各地に足を運んだ。特に心引かれたのは、仮面を着けた登場人物たち。来訪神・弥勒(みるく)に代表される存在だ。色白で耳が大きい、など共通の特徴を持ちながらも地域ごとに個性があると気付いたという。
「芸能の盛んな石垣の白保は顔立ちがキレイでおごそかな雰囲気」「踊りの中で、オホホという登場人物を諭す役割を持った、西表の干立は少し厳しい顔つき」「南城市佐敷津波古は顔も衣装も真っ白。金色のポシェットからあめ玉を配ります」
土人形「白澤(はくたく)」。琉球時代の絵師・自了(じりょう)作「白澤之図」を元に制作した。原画には描かれてない体の裏部分は、考察を重ねて斎藤さんがデザインした
弥勒の違いについて話す斎藤さんはとても楽しげだ。祭りの多様性を表現するために、始めたのが土人形だった。絵画よりも立体物の方が説得力があると感じたためだ。約10年かけてリサーチと制作を重ね、現在では弥勒だけでなく、獅子、空手、舞踊などさまざまな作品がラインアップしている。
建物を再構築
近年はコラージュ作品に力を入れている斎藤さん。題材は街中の建築物だ。市井の人々の暮らしや営みが見えるものがたまらないのだとか。「ハジヌバサー」と呼ばれる増築技法も見逃せないという。
「コザや伊良部島を回るとユニークな建物に出合います。黄金比率やホワイトスペースを取るとか、自分が習ってきた知識では、すぐには理解できないんです(笑)」
そんな建築物を分析するために、コラージュは最適だという。コンクリートブロック、壁のタイル、木製の窓枠といった細かい部分も紙で形作り、「再構築」していく。アレンジは極力加えない。そうすることで、建物を建てた人、住まう人の目線に近づけると考えているそうだ。再開発などで、いつの間にか失われてしまう風景の記録、そんな意味合いも込めている。
「強調しておきたいのは、沖縄で暮らす普通の人のデザイン感覚。そこがすごいんです」
そう言ってほほ笑んだ斎藤さん。彼のまなざしは伝統文化や街並みを下支えする、無名の人々への愛情で満ちていた。
(津波典泰)
斎藤秀二さんinstagram:@sui.no.ba
作品に関するお問い合わせはインスタグラムから
(2024年1月11日付 週刊レキオ 新年号掲載)