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若年妊産婦の保護シェルター「おにわ」、沖縄県の事業として始動 女性の選択を大切に


若年妊産婦の保護シェルター「おにわ」、沖縄県の事業として始動 女性の選択を大切に 一般社団法人おにわ代表理事の上間陽子さん(左)と現場を統括する支援コーディネーターの伊礼悠記さん=10月
この記事を書いた人 Avatar photo 吉田 早希

 2021年10月に開設した若年妊産婦を保護するシェルター「おにわ」が、今年10月1日から沖縄県の事業となった。新たに顧問弁護士を雇用し、入所者のドメスティック・バイオレンス(DV)や性暴力の問題解決の拡充を図るなどパワーアップしての始動だ。運営する一般社団法人おにわの代表理事で琉球大教授の上間陽子さんは「当事者の皮膚感覚や痛みを共有しながら、関係者と総力をあげ支援していきたい」と語る。

■新しい場所へ

 おにわは新たな場所に移る予定だ。10月初め、現在の場所を稼働しつつ、新しい場所で引っ越しに向けた作業が進められていた。新しいおにわになる建物も、太陽の柔らかい光が入り、風が通る。時折、鳥の声も聞こえてくる。室内は白やパステルカラーを基調とした壁や家具が並んでいた。入居者やスタッフが集う大きな机の上には、ふっくら焼けたパンやドーナツ、クッキーがずらり。どれも地域の人が手作りした差し入れだという。
 この日はおにわを巣立った女性たちが建物のペンキ塗りを手伝いに来ていた。最初はシミで汚れのあった壁も、彼女たちの手で明るい薄桃色に様変わり。階段や棚、机なども丁寧に塗り、将来新たな入居者たちが過ごす居場所に新たな息を吹き込んだ。

「おにわ」のテーブルに並ぶ、地域の人が手作りした差し入れ

■自分で決めていい

 おにわは「心の支えや頼れる人がいないママが、安心して母親になれるよう支える場所」として生まれ、2年間で11人が入居した。女性たちをサポートする上で、とても大切にしていることがある。それは、彼女たち本人の選択を尊重すること。周囲の支援者が入居を勧めた場合も、入居ありきではなく、まずは本人におにわを見学してもらう。その上で女性が自分の意思で「入りたい」と決めれば、入居手続きを進めている。
 「『大人は助けてくれる』という経験を積めないと、生きていくことはとても大変」。上間さんは語る。おにわに来る女性たちの多くは大人のパワーゲームの中で育ったり、行動をコントロールされたりしてきた。「自分でどうするか決めていい」―。おにわの支援の中に込められたメッセージは、彼女たちが自分の人生を形作るための軸となる。

■24時間体制

 女性たちの入居の背景には性暴力やDVなどの深刻な問題がある。特に夜間は、トラウマ(心的外傷)になっている出来事がフラッシュバックすることも多い。彼女たちが、いつでも安心して過ごせる場所を確保することは必須だ。
 そのためおにわは、24時間365日スタッフが常駐する。毎日医療者のスタッフがいる体制を組み、医療的アドバイスが受けられる環境を整える。看護師で支援コーディネーターの伊礼悠記さんは「あなたを大切に思っている、ということを伝えていく。彼女たちが頼れる大人、支援者を増やしていくことがとても大事だ」と語る。

■地域での生活

 おにわで過ごした後はそれぞれの地域で暮らす。そのため、入居中から行政とつながることや、子どもの保育園の入園手続きや定期健診の支援など、地域で生活するための基盤作りにも力を注いできた。県事業となり弁護士も加わるため、DVや性暴力に関する問題についても手厚くサポートできるようになる。一方、連帯保証人がいないためアパートを借りられないなど、退所後の居住場所を探す上で課題も浮かび上がっている。
 これまでは寄付金を集めながらの運営だったが、県事業として始動することでより安定的に活動できる。今回を機に法人も設立し、これからも支援する女性それぞれに寄り添っていく。上間さんは「県や市町村と三者関係のパートナーシップを組み、ママたちを継続的に支援できることを期待している」と見据えた。 

(吉田早希)