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「人手厳しい」「時間との勝負」津波が迫る中、高齡者施設どう対応 沖縄県内41市町村アンケート


「人手厳しい」「時間との勝負」津波が迫る中、高齡者施設どう対応 沖縄県内41市町村アンケート
この記事を書いた人 アバター画像 中村 万里子

 能登半島地震から1カ月に合わせて琉球新報が行った41市町村への防災アンケートでは、津波災害警戒区域にある、高齢者や障がいのある人などの要配慮者施設の避難計画作成が十分に進んでいないことが浮き彫りになった。市町村が要配慮者の名簿を基に作成する個別避難計画も、市町村によっては遅れがある。専門家は多くの施設が人手不足で、計画作成の業務に手が回っていないほか、本来福祉と防災の職員が連携して作成の支援に当たるべきだが行政の機能不全を指摘する。東日本大震災や能登半島地震の経験を生かし、巨大地震や津波への率先した備えが問われている。

 琉球新報の調査で、要配慮者の利用施設で津波に備えた避難確保計画の作成が大幅に遅れていることが明らかになった。施設側にとっては、避難のための人員確保も課題となっており、自力で歩けない高齢者らの避難は困難が想定される。

 那覇市の国場川沿いや若狭、前島、辻など一帯は津波災害警戒区域にあり、那覇市津波浸水想定マップでは3メートルの津波で一帯が浸水する想定となっている。警戒区域内の辻にある特別養護老人ホーム「つじまち」は、避難確保計画は作成していないものの、2022年に作成した業務継続計画(BCP)で避難場所と方法を定めている。

 建物は5階建てで津波で1、2階が浸水する想定。このため、利用者を3階以上に避難させる計画だ。1階のデイサービス利用者は自力歩行できる人が多いため、それほど問題はないとみている。

内階段で避難の経路について説明する特別養護老人ホーム「つじまち」の磯健太事務長=1月31日、那覇市辻の同施設
内階段で避難の経路について説明する特別養護老人ホーム「つじまち」の磯健太事務長=1月31日、那覇市辻の同施設

 しかし、2階の入所者20人は要介護度が高く、自力歩行できない人が多い。夜間は職員が5、6人のため、夜間に津波を伴う地震が起きた場合、避難は時間との勝負とみる。磯健太事務長は「津波が来るまでの時間があればいいが」と懸念を話す。

 同施設は、那覇市の一時的な「津波避難ビル」に指定されており、近隣住民も受け入れる想定になっている。このため、磯事務長は地域の人たちの手も借りて避難を円滑に進めたいと期待する。「コロナ禍で途絶えた施設と地域との連携が再開すれば、地域の人の手も借りながら避難の連携ができるのでは」

 避難の際の人手不足への懸念は、高齢者が利用する施設共通の課題だ。那覇市松山の「デイサービス愛・さんさん広場」は、他の施設の避難計画を参考に津波・地震マニュアルを作成中。近くに津波避難ビルがあり、そこに利用者を誘導し避難する想定だ。しかし、利用者30人に対し職員は十数人。担当者は「数人で1人を運ぶことになるだろう。人手は厳しい。人員を派遣してもらうにしても津波到達に間に合わない可能性がある。うちの施設は歩ける方が多いが、全く歩けない人が多い施設はもっと大変だろう」と話した。

 (中村万里子)

 避難確保計画 津波や水害、土砂災害が発生する恐れがあるとき、高齢者や障がい者、乳幼児ら「要配慮者」が円滑・迅速に避難できるよう必要な事項を定めた計画。要配慮者利用施設の管理者は、津波法や水防法、土砂災害防止法に基づき計画を作成する義務がある。防災体制や避難誘導、避難確保のための施設整備、防止教育や訓練の実施などの事項から構成される内容となっている。