1月に発生した能登半島地震では、住宅倒壊などで多くの住民が避難所生活を余儀なくされた。そのため避難所でのトイレ不足や環境衛生の悪化などの問題が深刻化した。現地に調査で入ったNPO法人日本トイレ研究所の加藤篤代表理事は「トイレの問題を設備的に位置づけるのではなく、災害関連死を防ぐための重要な取り組みとして考えてほしい」と呼びかける。
多くの自治体では、簡易や携帯トイレなどの不足分を補うために、民間協定などによる流通備蓄や国のプッシュ型支援を活用するとしている。ただ、過去の災害や今回の能登地震も含め、道路の寸断により支援物資の搬入遅れが報告されている。
加藤代表理事によると、備えがないために起きる問題として、集団感染のリスクが高まることが挙げられる。能登半島地震でも避難所でノロウイルスなどの消化器感染症が確認された。また不衛生な環境下のため排せつを我慢し食事や水分摂取を控えるとエコノミークラス症候群や誤えん性肺炎が引き起こされる可能性がある。加えて、集団生活の秩序や治安が乱れることにもつながる。避難者間でストレスがたまり避難所運営に支障を来すなどの弊害も生まれる。
同研究所では、2023年に全国の都道府県および市町村を対象に災害用トイレの備蓄・整備に関するアンケートを実施。国が求める想定避難者数に対しての最低3日間の備えに「足りる見込み」と回答したのは30・7%のみだった。
加藤代表理事は、「外部からの支援は不安定な要素が大きい。最も信頼できるのは『備えたものがその場にあること』だ」と強調する。その上で「たかがトイレではなく、命と尊厳に関わること。命を守るためにも問題を共有し喫緊の課題として取り組むことが重要だ」と語った。
(新垣若菜)