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<識者>大浦湾着工1カ月 辺野古「無益な選択肢」 米軍への国内法適用を 豊下楢彦氏(元関西学院大教授)


<識者>大浦湾着工1カ月 辺野古「無益な選択肢」 米軍への国内法適用を 豊下楢彦氏(元関西学院大教授) 元関西学院大教授の豊下楢彦氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古の新基地建設を巡り、日本政府が、軟弱地盤が広がる大浦湾側の埋め立てに着手して10日で1カ月。県民の反対に「聞く耳」を持たず、政府が「唯一の選択肢」と推し進める新基地建設は米軍からも軍事的に否定的な声が聞こえる。国際政治学者の豊下楢彦氏(元関西学院大教授)は、在沖米軍高官が普天間飛行場を使い続けたいと述べた“本音”を踏まえ、新基地は「無駄で無益な選択肢」と指摘する。人口密集地を飛ぶ米軍に国内法を適用させることこそが、普天間飛行場の危険性除去を巡り当面の「唯一の解決策」だと訴えている。

(中村万里子)

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 政府は普天間飛行場の危険性除去、全面返還のためと称し、代執行で強引に大浦湾の埋め立て工事に着手した。しかし、在沖米軍高官は昨年11月、辺野古の新基地は“使い勝手が悪い”として「軍事的な観点からは普天間にいた方がいい」と報道陣に語った。

 政府の照会に米側からは、移設が唯一の解決策だと約束するという「趣旨の返答」がなされたとのことであるが(「朝日新聞」23年12月18日)、右の高官発言を否定したとは報じられていない。この発言で、米軍が普天間に居座り続けるとの意志が事実上表明されたと言えるだろう。

 とすれば、辺野古の工事は「唯一の選択肢」どころか、全く何の意味も持たない「無駄で無益な選択肢」そのものである。ところが「沖縄に無関心」とされる岸田政権は「強引」に工事を推し進めようとしている。そこには、沖縄側には工事を止める「有効な手だてがない」という開き直りが見られる。何より、どれだけ沖縄が抗議しても政権の危機に結び付かないと、高をくくっているのであろう。

 そうであれば沖縄側には、政権が危機に直面するような闘い方が求められていると言えよう。焦点は、工事を所管する国交相を擁する公明党である。「平和の党」を掲げる一方で国交相がこのばかげた工事の推進役を担っている、この根本的な矛盾が追及されねばならない。仮に沖縄の怒りが公明党本部に全面的に向けられるならば、本土のメディアや世論の状況は一変し、支持母体の創価学会もその立ち位置の再検討を余儀なくされるであろう。政権基盤が流動化している今こそ、沖縄の怒りをもって公明党の基本姿勢を問い詰めていくならば、工事を止める最も「有効な手だて」となるであろう。

 それでは、普天間の危険性の問題にいかに対処すべきであろうか。そもそも、なぜ「危険」なのか。それは人口密集地で米軍機が日本の国内法を無視して傍若無人に飛び回るからである。この点について政府は地位協定を背景に、「米軍の運用に支障を来さないように」との論理を主張するが、これは軍事による人権侵害を“公認”したものに他ならず強権国家の論理につながるものである。軍事の名による人権蹂躙の行き着く先はガザのような悲劇的事態である。ガザは、軍事による人権侵害が断じて許されてはならないことを教えている。当面の普天間問題の「唯一の解決策」は、米軍への国内法の適用に踏み込むことである。

 (国際政治論)