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伝統か動物愛護か、揺れるウミンチュのまち 「アヒル取り競争」巡りさまざまな声広がる<WEBプレミアム>


伝統か動物愛護か、揺れるウミンチュのまち 「アヒル取り競争」巡りさまざまな声広がる<WEBプレミアム> 2023年の糸満ハーレーで行われたアヒル取り競争=6月21日、糸満市の糸満漁港(写真の一部を加工しています)
この記事を書いた人 琉球新報社

 「アヒルと人の知恵比べ、その始まりは…」から続く

世代を超え人気

子どもから大人まで、誰でも自由に参加できるアヒル取り競争は、糸満ハーレーの中でも世代を超えて人気だ。地元住民からは「楽しみにしていた」「盛り上がる行事だ」などの声も上がる。

糸満市内の20代女性はアヒル取り競争について「子どもたちにハーレーの伝統をつないでいく意味では、続けてほしい」と望む。

中学生の頃には、参加する同級生らを応援に会場に足を運んだ。「子どもたちが当日、飛び入り参加できる演目はアヒル取りくらい。楽しみに泳ぎの練習をする子もいた。糸満独特の催しがなくなるのは寂しい」としつつ、「時代の流れもあるので、変わるのは仕方ないとも思う。アヒルに代わって既に取り入れられているスイカの割合を増やすなどしてもいいかもしれない」と複雑な思いを語る。

とは言え、厳しい目も…

一方、アヒル取り競争に厳しい目を向ける人は多い。昨年の糸満ハーレー開催後には、市やハーレー行事委員会に「動物虐待だ」と中止を求める声が多数寄せられたという。

2011年にはアヒルを捕獲する際に首や足を引っ張る不適切な行為が確認されたとして、県動物愛護管理センターが糸満ハーレー行事委員会に、改善勧告を行った。18年には生体使用の再考を促す要請もしている。

それを受け、行事委員会も対策を講じてきた。パンフレットに「アヒルとの知恵比べと水泳技術の向上を目指す。アヒルも命ある生き物。首や羽を無理に握らないように」と記し、会場放送でも注意を呼び掛ける。捕まえたアヒルを傷つけないために参加者に柔らかいネットの提供も始めた。

記者会見する(右から)岡田千尋さん、本田京子さん=10日、県政記者クラブ

2015年以降、アヒル取り競争の中止を求めてきたNPO法人アニマルライツセンター(東京都)は、「改善が見られない」として2022年7月、沖縄県警に祭り関係者の男性を刑事告発した。NPO側は「アヒルに限度を超えた苦痛を与える行事で、動物虐待に該当する可能性がある」と主張している。

同法人は動物への非倫理的な扱いをなくし「動物が動物らしくいられる権利と尊厳を守るための活動」を展開。畜産動物の扱いの改善、動物実験や衣服への動物使用の廃止を求める活動のほか、競馬や馬術、サーカス、動物園や水族館などでの生体の取り扱いや、動物を使う伝統行事のあり方を問うている。

「ハブとマングース」 動物愛護の観点から廃止

動物愛護の観点から姿を消した沖縄のイベントとして、ハブとマングースの決闘がある。1960年代から沖縄観光の目玉として県内の複数施設で実施されていた。1999年に「動物愛護の面から問題がある」として玉泉洞がショーの中止を発表したのを皮切りに、議論が進んだ。県内外から取りやめを求める声が相次いだことや、2000年施行の動物愛護管理法の対象に爬虫類が加わったことにより、同年、県内全ての施設が「決闘」廃止に踏み切った。

1960~1990年代末まで沖縄県内で盛んに行われていたハブとマングースの決闘=1963年6月3日、那覇市

2018年には闘鶏でけがを負ったとみられる鶏が捨てられる事案が県内各地で相次ぎ、糸満市議会と県議会へ闘鶏禁止条例の制定を求める陳情が提出された。糸満市議会では不採択となったが、県議会では「動物愛護法に抵触する恐れがある」と全会一致で陳情が採択された。

沖縄県では条例制定に至っていないが、東京都や北海道などでは闘鶏や闘犬など動物を闘わせることは条例により禁止されている。

「許されない」「伝統だ」「あり方検討を」

今回のアヒル取り競争を巡る書類送検はSNSでも関心を集めた。X(旧ツイッター)では「誰がどう見たって残酷で身勝手な行事だから、縮小や中止でも構わない」「伝統だからって許されることではない」と中止に賛同する声があがる一方、「伝統行事で神事でもあったと思う。殺すわけでもない」、「動物愛護も行き過ぎな感がある」「告発したのは東京の団体。糸満でよく話し合ってほしい」といった投稿も寄せられた。

県内の識者からもさまざまな声が上がる。

糸満の歴史と文化研究会主宰の金城善さんは、糸満漁港が戦前は海浜でアヒルを海に放って捕まえられる環境ではなかったこと、戦前の資料にアヒル取り競争の記述が見られず、糸満ハーレーのプログラムには1977年から明記されるようになったことなどから「本当に戦前からあったのか分からない」と疑問を呈す。

文化財として指定されているものの、転覆競漕やアヒル取り競争は神事ではなく「あくまで余興の一つだった」と指摘。時代の流れに伴い糸満ハーレーのイベント化が進んだことに触れ、「アヒル取り競争だけが伝統だから継続すべきだという考えは成り立たない。生きたアヒルを使うことに対し批判があるならば、あり方を再考すべきだ」と話した。

一方、琉球大学名誉教授の津波高志さん(沖縄民俗学)は「民俗行事はその土地の文化や生業形態を反映して発展したもの。アヒル取り競争はまさしく海に親しんできたウミンチュの楽しみとして生まれた行事だ」と指摘する。

地元住民がアヒル取り競争を楽しんでいる現状に触れ、「地域の文化や価値観に基づいて続けてきた行事を、当事者以外が自らの価値観の正しさのみを主張し排除しようとするのはいかがなものか」と疑問を呈した。

法が定める動物虐待の基準は

沖縄国際大学名誉教授(動物生態学)の宮城邦治さんは「伝統行事の中で(動物を使って)行われていることについて、何が動物虐待に当たるのかは、見ている人の価値観によっても違う」と指摘する。

動物愛護法では違反行為について「愛護動物をみだりに殺し、または傷つけ」などと記す。宮城さんは、この「みだりに」という部分にあいまいさがあるとした上で、アヒル取り競争については「動物愛護法の視点から見ても、虐待にあたらないとは思う」と捉えている。

県外では、動物愛護の観点から批判の声を受けて形を変える例も出ている。動物虐待との批判が上がってきた三重県桑名市の「上げ馬神事」は今年、馬が駆け上がる坂の傾斜を緩めるなど、複数の変更を反映した上で例年通り5月に開催する。

アヒル取り競争についても賛否の声があることを踏まえ、宮城さんは「『動物虐待だ』との声が出たのなら、行事を継続している側は、その声に真摯に向かうべきだ。糸満市民や周辺地域から見に来ている人たちの声を反映した形で、行事の在り方について検討していくことも必要ではないか」との見方を示した。

(了)

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