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日系の強制退去 ブラジル政府、謝罪を再審議 81年ぶりの名誉回復へ期待 7月にも判断


日系の強制退去 ブラジル政府、謝罪を再審議 81年ぶりの名誉回復へ期待 7月にも判断 サントス事件の謝罪請求について説明するブラジル沖縄県人会の関係者ら=5月21日(ブラジル日報、島田莉奈撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 宮沢 之祐

 第二次世界大戦中の1943年、日本人移民ら約6500人がスパイ容疑で強制退去されたサントス事件について、ブラジル沖縄県人会などがブラジル政府の謝罪を求めた請願が人権省の委員会で審議されている。7月25日に判断が下される見通し。

 同様の請願が前政権のもとで却下されたが、再審議となったことで、現地の日系社会では81年ぶりの名誉回復への期待が高まっている。

 大戦でブラジルは連合国側についた。ブラジル政府は43年7月8日、港町サントスに住む日本とドイツの移民に24時間以内の退去を突然命じた。沖合で米国とブラジルの商船がドイツ潜水艦に撃沈され、移民がスパイ行為をしたとみなしたのだ。

日本人移民の強制退去を伝える1943年7月9日付ブラジル・エスタード紙

 無実の罪で追放された人々は着の身着のままでサンパウロの収容所へ。多くの人が家財を持ち出せず、家も仕事も失ったが、戦後も補償されることはなかった。

 2015年、事件に関心を持った日系3世のテレビプロデューサー奥原マリオ純さん(44)が人権侵害への謝罪を政府に請求。しかし、右派ボルソナロ前政権のもとで申請は却下された。

 16年には、退去させられた585家族の名簿が確認され、名前から沖縄出身者が6割以上を占めると分かった。現地で移民史を研究する宮城あきらさん(86)らが生存者の聞き取りをし、現地の邦字紙「ブラジル日報」が繰り返し報じた。

 左派ルラ政権に代わったことから、昨年9月に謝罪の請願を人権省の委員会に再申請した。ブラジル沖縄県人会も請求者に加わった。ことし4月、委員会から申請者らに事前審査があった。委員長から「歴史を掘り起こしていることに感謝したい」と声を掛けられたという。

 請求には補償が伴わない。「父母の無実の罪を明らかにし、名誉を回復したい」と高良律正県人会長(68)。宮城さんは「人権侵害を引き起こす戦争を繰り返さないことが事件の教訓だ」と強調した。 

(宮沢之祐)