prime

「少年事件」背景に寄り添った記事を 琉球新報・読者と新聞委員会(下)


「少年事件」背景に寄り添った記事を 琉球新報・読者と新聞委員会(下) 沖縄戦・慰霊の日関連報道や少年事件等に関する報道などについて意見を交わす「読者と新聞委員会」の委員ら=12日、那覇市泉崎の琉球新報社
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

琉球新報社は12日、読者と新聞委員会(主宰・普久原均琉球新報社社長)の第53回会合を那覇市泉崎の本社で開いた。島袋伊津子氏(沖縄国際大教授)、末吉康敏氏(県産業振興公社理事長)、竹内清文氏(NPO法人レインボーハートokinawa理事長)、諸見里明氏(興南学園中学・高校長)の4委員が出席し、沖縄戦・慰霊の日の関連報道、最近の少年事件を巡る報道をテーマに意見を交わした。沖縄戦の実相を見つめる連載「国防が奪った」や慰霊の日前後の紙面について、体験者の証言を通じて当時の悲惨な状況が伝わるとして評価した。体験者が減る中、一人でも多くの証言を残し、戦争を止めるための報道を続けるよう要望が上がった。(文中敬称略)

少年事件

根底に沖縄独特の事情 諸見里氏
貧困とのつながり懸念 竹内氏
背景寄り添った記事を 島袋氏
非行 減っているのでは 末吉氏

竹内 犯罪を行う少年がイコールで貧困という訳ではないが、貧困とのつながりを考えてしまう。薬物事犯がなくならないのは環境の影響もあると思う。印象的なのは「中2で大麻、もうやらない」の見出し。彼らはすごく追い込まれている。家庭環境だったり、助けてと言える人が周りにいなかったりすることがあると思わされた。

島袋 スマートフォンやSNSの登場で知らない人と容易につながれるようになった。彼らの立場となって犯罪関係のネット検索をすると、すぐに出てくる。家庭に問題のある子どもたちを現場教師だけで背負うのは限界で、社会で支える仕組みをつくらないと解決は難しい。犯罪を断罪するだけでなくなぜ犯罪に至ったのか、子どもたちの複雑な背景に寄り添った記事を今後もお願いしたい。

諸見里 暴行を伴う強盗事件やオレオレ詐欺など、こうした犯罪は学校教育の失敗だ。教育委員会にいるころから少年非行は大きな課題で深夜徘徊(はいかい)、無断外泊、飲酒の数は全国平均の数倍高かった。遊び非行型の不登校は沖縄が突出している。昔、県公安委員会の生徒指導に携わる幹部は「少年非行の根底には沖縄の独特な風習、早婚、離婚、貧困がある」と言った。これまでの学校の取り組みは必要だが対症療法でしかなく、根本的な解決にはつながっていないのではないか。

末吉 楽観論者だが、20、30年前と比べて少年事件は減っていると感じる。イオンが24時間営業を始めた際、頭を悩ませたのは店の駐車場でたむろし、たばこを吸ったり、酒盛りしたりする中高生だった。警備会社と契約し、警備員の巡回を始めた。15年ほど前からは少年たちはいなくなり、巡回はやめた。少子化やスマホの浸透で外出しなくなったこと、酒たばこが買えなくなったことで少年非行は減っているのではないか。

普久原 オレオレ詐欺などには地元のいびつな上下関係で支配される構造がある。諸見里先生が指摘したように対症療法では解決できない。報道機関が罪を犯した少年の声を丁寧に聞き、社会と共有したい。社会と共に解決策を模索していきたい。

普久原均社長
松永勝利統合編集局長
小那覇安剛論説委員長

自由討論(ウェブ活用、米兵事件)

ウェブ活用、興味深い 竹内氏
米兵性犯罪に強い憤り 諸見里氏

竹内 32軍壕坑道の報道公開や慰霊の日の紙面に掲載されたQRコードを読み込んで、紙面には載っていない写真や動画を視聴できた。このようなウェブを活用した取り組みも興味深く見ている。

座波幸代暮らし報道副グループ長 戦争体験者が少なくなる中で場所や物が継承につながる。ウェブサイトを活用して動画やビジュアルで見せていくことを工夫していく。

諸見里 最近の報道を通して許せないと憤りを感じているのが、米兵による性犯罪だ。政府が事件を知っていながら情報を隠したとしたら、強い憤りを感じる。

新垣和也政経グループ長 2件のうち最初の事件は、琉球新報はじめ報道各社の記者が裁判所の公判期日を確認する際に事件の存在が分かった。もう1件は琉球新報に寄せられた情報をもとに裏付け取材をし、最初に記事にした。外務省は事件を把握していたが、地元自治体へは伝えられていなかった。首相官邸には報告があり岸田文雄首相の耳にも入っていたと思う。沖縄の問題に対する政府の感覚が鈍っているのではないか。沖縄戦の問題や沖縄への贖罪(しょくざい)の意識が次第に薄くなっているというのが、今回の事件を巡る政府側の情報の取り扱いにも出ているのではないか。


<出席者>

■読者と新聞委員会第9期委員(五十音順)

島袋伊津子氏(沖縄国際大教授)
末吉康敏氏(県産業振興公社理事長)
竹内清文氏(NPO法人レインボーハートokinawa理事長)
諸見里明氏(興南学園中学・高校長)

■琉球新報社

普久原均社長
松永勝利統合編集局長
小那覇安剛論説委員長
与那嶺松一郎次長・報道本部長
新垣和也政経グループ長
高江洲洋子暮らし報道グループ長
大城誠二同副グループ長
又吉康秀同副グループ長
岩崎みどり同副グループ長
島袋貞治同副グループ長
座波幸代同副グループ長
嶋野雅明編成グループ長